道因哥ニ志深事 此道に心ざしふかゝりしことは道因入道なら びなき物なり。七八十になるまで秀哥よませ 給へといのらんためかちよりすみよしへ月まうで したるいとありがたき事也。ある哥合に清輔 判者にて道因が哥をまかしたりければわざ と判者のもとにまうでゝまめやかになみだをなが しつゝなきうらみければ亭主いはんかたなく
かばかりの大事にこそあはざりつれとぞかたられ ける。九十ばかりになりてはみゝなどもおぼろな りけるにや會のときはことさらに講師の座 のきわにわけよりてわきもとにつぶとそひゐて みづはさせるすがたにみゝをかたぶけつゝ他事なく きゝけるけしきなどなをざりのことゝはみえざ りき。千載集ゑらばれ侍し事はかの入道うせて のちの事也。されどなきあとにもさしもみちに 心ざしふかゝりし物なりとて優して十八首を いれられたりけるに夢のうちにきたりて なみだをおとしつゝよろこびいふとみ給たりければ
ことにあはれがりて今二首をくはへて二十首に なされたりけるとぞ。しかるべかりけることにこそ。