絵入自讚歌註 宗祇
雅經朝臣
しら雲のたえまになびくあをやぎの
かつらぎ山にはるかぜぞふくこれは萬葉に あをやぎのかつらぎ山にゐる雲
のたちてもゐてもいもをこそ思へ。といふうたをとれり。万葉の哥はあをやぎはまくら詞にてすゑにその用なし。しかれば連哥の寄合にせん事かなふべからず。この哥柳あるやうなり。但これも猶まくら詞にや侍るらん。まことにたぐひなくこそ。又ある註に山みどりなる事をいへり。尋べし。 たづねきて花にくらせる木のまより 待としもなき山のはの月待としもなきとは月をおもはぬにはあらず。花を待しときはかゝる月までとはおもはざりしをあひにあひたる興のおもしろき心にや。
たへでやは思ひありともいかゞせむ もぐらのやどの秋のゆふぐれ此うたことはりあきらかならずとぞ。但秋のゆふぐれの思ひはありともいかゞせむなべてのことはりなり。秋立ぬればわするゝ事侍るべき思ひなり。このもぐらの宿に常住の思ひあればたへでやはすまれもせんといふこゝろとぞ。 はらひかねさこそは露のしげからめ やどるか月の袖のせばきに心は月は露をたよりとしてやどるもの也。我袖のうへにはらひかねたるつゆはさこそしげくとも
かくまで月のこのせばき袖にやどるべしやといふこゝろにや。まことに/\思ひよりかたく侍るすがたにや。たゞ袖の露おほきよしなり。 うつりゆく雲にあらしのこゑすなり ちるかまさきのかつらぎの山此うたはかくれたる所なくみるまゝの妙なる哥なり。くれ/"\奇特の事とぞ。 いたづらにたつやあさまの夕けぶり さととひかぬるをちこちの山この事むづかしく申人侍し。不足信用是はたゞかのをちこち人のみやはとがめぬといふを
雅經朝臣
しら雲のたえまになびくあをやぎの
かつらぎ山にはるかぜぞふくこれは萬葉に あをやぎのかつらぎ山にゐる雲
のたちてもゐてもいもをこそ思へ。といふうたをとれり。万葉の哥はあをやぎはまくら詞にてすゑにその用なし。しかれば連哥の寄合にせん事かなふべからず。この哥柳あるやうなり。但これも猶まくら詞にや侍るらん。まことにたぐひなくこそ。又ある註に山みどりなる事をいへり。尋べし。 たづねきて花にくらせる木のまより 待としもなき山のはの月待としもなきとは月をおもはぬにはあらず。花を待しときはかゝる月までとはおもはざりしをあひにあひたる興のおもしろき心にや。
たへでやは思ひありともいかゞせむ もぐらのやどの秋のゆふぐれ此うたことはりあきらかならずとぞ。但秋のゆふぐれの思ひはありともいかゞせむなべてのことはりなり。秋立ぬればわするゝ事侍るべき思ひなり。このもぐらの宿に常住の思ひあればたへでやはすまれもせんといふこゝろとぞ。 はらひかねさこそは露のしげからめ やどるか月の袖のせばきに心は月は露をたよりとしてやどるもの也。我袖のうへにはらひかねたるつゆはさこそしげくとも
かくまで月のこのせばき袖にやどるべしやといふこゝろにや。まことに/\思ひよりかたく侍るすがたにや。たゞ袖の露おほきよしなり。 うつりゆく雲にあらしのこゑすなり ちるかまさきのかつらぎの山此うたはかくれたる所なくみるまゝの妙なる哥なり。くれ/"\奇特の事とぞ。 いたづらにたつやあさまの夕けぶり さととひかぬるをちこちの山この事むづかしく申人侍し。不足信用是はたゞかのをちこち人のみやはとがめぬといふを