家長日記
すべて、この長明みなし子になりて、社の交じらひもせず、籠り居て侍りしが、歌の事により、北面に參り、やがて、和歌所の寄人になりて後、常の和歌の会に歌參らせなどすれば、まかり出づることもなく、夜昼奉公怠らず。
「手習ひといふ琵琶を持たりし、尋ねよ」と仰せ侍りしかば、大原へ消息して侍りしかば、使につけて參らすとて、撥に書きつけたりし歌、
かくしつつ峰の嵐のおとのみやつひにわが身を離れざるべき
払ふべき苔の袖にも露しあれば積もれる塵も今もさながら
これを御覽じて、「返事せよ」と仰せられしかば、
これを見る袖にも深き露しあれば払はぬ塵はなほもさながら
山深く入りにし人をかこちても半ばの月を形見とは見ん
すべて、この長明みなし子になりて、社の交じらひもせず、籠り居て侍りしが、歌の事により、北面に參り、やがて、和歌所の寄人になりて後、常の和歌の会に歌參らせなどすれば、まかり出づることもなく、夜昼奉公怠らず。
「手習ひといふ琵琶を持たりし、尋ねよ」と仰せ侍りしかば、大原へ消息して侍りしかば、使につけて參らすとて、撥に書きつけたりし歌、
かくしつつ峰の嵐のおとのみやつひにわが身を離れざるべき
払ふべき苔の袖にも露しあれば積もれる塵も今もさながら
これを御覽じて、「返事せよ」と仰せられしかば、
これを見る袖にも深き露しあれば払はぬ塵はなほもさながら
山深く入りにし人をかこちても半ばの月を形見とは見ん