尾張廼家苞 四之上
(たよりなきほどに、我ためにしるべ して、此思ひをしらせてくれよと也。)
和歌所哥合に忍恋 摂政
難波人いかなるえにかくちはてんあふ事なみにみをつくしつゝ 二三の句、江を縁のこゝろにとりて、終にいかなる縁にか朽 はてんとなり。(くつるとは、みをつくしの 縁にて死る事なり。)初句は、江と云、浪といひ、みをつくし といはん料に、恋する我身をさしていへるなれど、難波 人のくちはつるといふ詞のいかにぞやきこゆる也.(不朽といふは,死なぬ 事なれば、くつるといふ は死の義なる事論をまたず。人といひ、しねるといはんに、いかゞなる事もなし。まづ難波人 は、みづからの上のたとへ、二三の句は、いかなるくされ縁にて命をうしなふ事やらんと いふ意。みをつくしは、江にくちはつるとかけ合たる詞にて、みをつくしは身力をつくす事,俗 に骨を折といふ意。一首の意は、我身はあひがたき恋にちからをつくして、いかなる因 縁にておもひ死に死もする事やらん と也。一四五二三とつゞけてみるべし。)
隠名恋 俊成卿 蜑のかるみるめをなみにまがへつゝなぐさの濱をたづね詫ぬる 二三の句は、海邊なる海松めの浪にかくれて見失なひたる 意にて、たとへたる意は、一度あひみつれども、其人宿をも名を も隠せる故に、誰といふ事をとめうしなひたる也。(初句は みるめと いひ、名草の濱を尋ぬるといふ縁にいへるにて、義はなし。二ノ句みるめは 相みる事、正しく恋の義にて海松は詞の縁のみ也。たとへたる意といふべからず。)下句 はなぐさに名といふことをもたせて、宿をも名をも尋ね わびぬと也.上にぞのやともいはで,ぬるとまりたるは変格にて,尋 わびぬる事よと打なげきたる意のてにをは也。(一首の意は、一た び逢みし人の 又もあひみがたき故に、其名を何と尋ねんよしなしと也。行ずりのこひにて、 はじめて逢みたりしほどは宿をも名とも顕ざりし也。さて此次に此歌につきて)
(まぎらはしき事ありとて議論三条あり 的切にもあらぬ事故今これをはぶく。)