不可立哥仙之申教訓事
おなじ人つねにをしへて云。あなかしこ/\哥よみ なたて給そ。哥はよく心ずべき道なり。われらがごと くあるべきほどさだまりぬる物はいかなるふるまいを すれどもろれによりて身のはふる(る)ごとはなし。 そこなどは重代の家にむまれてはやくみなし子に なれり。人こそもちゐずとも心ばかりはおもふ所ありて 身をたてんとほねばるべきなり。しかあるを哥の道 その身にたへたることなればこゝかしこの會にかま へて/\と招請ずべし。よろしき哥よみいでたらば 面目もありみちの名誉もいできぬべし。さはあれど
所/\にへつらひありきて人にしらるゝ方はありと も遷度のさはりととはかならずなるべかめり。そこたち のやうなる人はいと人にもしられずしてさしいづる 所にはたれぞなどとはるゝやうにて心にくゝおもはれ たるかよきなり。さてなに事もこのむほどにそのみちに すぐれぬればきりふくろにたまらずとてそのきこえ ありてしかるべき所の會にもまじはり雲客 月卿のむしろのすゑにのぞむこともありぬべし。 これこそみちの遷度にてはあれ。こゝかしこの人非人 がぐひにつらなりて人にしられ名をあげては
なにゝかはせん。心にはおもしろくすゝましくおぼゆと もかならず所きらひしてやう/\しと人にいはれむと おもはるべきとなんおしへ侍し。今おもひあはすれば いみじき恩をかうぶれるなり。さるはかしこき物のなら ひなれば我子などをだにおぼろげならでは教訓す ることもなかりしをかやうにうしろやすくいひをしへ ければ又こと/"\にあらず管弦のみちにさつけてあと つぐべき物とて世にも人にもかずへられてあれかかし ともひけるにこそのどかにおもへばいとあはれになむ。
※おなじ人中原有安。五位筑前守で長明の琵琶の師匠。
おなじ人つねにをしへて云。あなかしこ/\哥よみ なたて給そ。哥はよく心ずべき道なり。われらがごと くあるべきほどさだまりぬる物はいかなるふるまいを すれどもろれによりて身のはふる(る)ごとはなし。 そこなどは重代の家にむまれてはやくみなし子に なれり。人こそもちゐずとも心ばかりはおもふ所ありて 身をたてんとほねばるべきなり。しかあるを哥の道 その身にたへたることなればこゝかしこの會にかま へて/\と招請ずべし。よろしき哥よみいでたらば 面目もありみちの名誉もいできぬべし。さはあれど
所/\にへつらひありきて人にしらるゝ方はありと も遷度のさはりととはかならずなるべかめり。そこたち のやうなる人はいと人にもしられずしてさしいづる 所にはたれぞなどとはるゝやうにて心にくゝおもはれ たるかよきなり。さてなに事もこのむほどにそのみちに すぐれぬればきりふくろにたまらずとてそのきこえ ありてしかるべき所の會にもまじはり雲客 月卿のむしろのすゑにのぞむこともありぬべし。 これこそみちの遷度にてはあれ。こゝかしこの人非人 がぐひにつらなりて人にしられ名をあげては
なにゝかはせん。心にはおもしろくすゝましくおぼゆと もかならず所きらひしてやう/\しと人にいはれむと おもはるべきとなんおしへ侍し。今おもひあはすれば いみじき恩をかうぶれるなり。さるはかしこき物のなら ひなれば我子などをだにおぼろげならでは教訓す ることもなかりしをかやうにうしろやすくいひをしへ ければ又こと/"\にあらず管弦のみちにさつけてあと つぐべき物とて世にも人にもかずへられてあれかかし ともひけるにこそのどかにおもへばいとあはれになむ。
※おなじ人中原有安。五位筑前守で長明の琵琶の師匠。