富士
するがの國にかかりて、ざいちゆうじやうの山は富士のねいつとてかといひけむも、ことわりとおぼえて、はるかに富士のたかねを見上ぐれば、折知り顏の煙立ちのぼり、山のなかばは雲に隱れ、ふもとに湖水をたたへ、南にはかうげんあり、前にはさうかいまん/\として、でうぎょの助けにたよりあり。
都をいでて、多くさんせんかうかいをしのぎし旅の憂さも、ここにて少し忘るるここちしておぼえける。
風になびくふじのけぶりの空に消えてゆくへも知らぬわが思ひかな
いつとなき思ひはふじのけぶりにてまどろむほどやうきしまがはら
※山は富士の
1614 第十七 雜歌中 在原業平
※風になびく
1613 第十七 雜歌中