蘇合ノスガタ
抑樂の中に蘇合といふ曲あり。これをまふ
には五帖まで帖〃をきれ/"\にまひおはりて
のち破をまふ。やがてつゞけてきうをまふべきに
急の一反をばまことにまふことなし。かたの
ごとく拍子ばかりにあしをふみあはせてうち
やすみつゝ二反のはじめよりうるわしくてまふ也。
このけすらひはたがはぬ半臂の句の心也。哥と楽と
みちことなれどめでたきことはおのづからかよへるなる
べし。かよはしてしらざらん人はなにとかはおもひ
わかむ。かたのごとく両方を心ゑておもふためには
ことに典興あることなり。されば蘇合を半臂の
句あるまひといふ。この哥のさまをば蘇合のすがたとも
いひてんかし。
蘇合の姿
そもそも楽の中に蘇合と云ふ曲あり。これを舞ふには、五帖まで帖々を
きれぎれに舞ひ終わりて後、破を舞ふ。やがて続けて急を舞ふべきに、
急の一反をば真に舞ふことなし。かたの如く拍子ばかりに足を踏み合わ
せて、打休みつつ、二反の始めより麗しくて舞ふ也。このけすらひは、
違はぬ半臂の句の心也。歌と楽と道異なれど、めでたき事は自づから通
へるなるべし。通はして知らざらん人は、何とかは思ひ分かむ。かたの
如く両方を心ゑて思ふためには、殊に典興あることなり。されば蘇合を
半臂の句ある舞といふ。この歌のさまをば蘇合の姿とも云ひてんかし。
※蘇合
蘇合香という天竺舞。六人が正式だが、四人で舞う略式もある(YouTube参照)。アショカ王が蘇合香と云う薬で病が癒えたので作らせたと伝わる。
雅 114 蘇合香、雅楽、六華苑、2018秋の舞楽会、多度雅楽会
※けすらひ
けすらい〔けすらひ〕【▽擬ひ】《動詞「けすらう」の連用形から》それと感じられるようす。そぶり。趣向。「いみじう歌の品 (しな) も出で来、ふるまへる―ともなるなり」〈無名抄〉goo辞書大辞泉より。
※半臂
束帯の時、袍と下襲との間に着る短い衣。歌半臂句事では、三句に枕詞を入れて一息つく歌としている。
※かたの如く両方を
うたの如くの誤写と言う説もある。