きのふこそとしはくれしかは〔るがすみ〕 かすがのやまにはやたちにけり 人丸 春がすみたてるやいずこみよし野の よしのゝ山に雪はふりつゝ 赤人 あさひさすみねのしらゆきむらぎえて はるのかすみはたなびきにけり 兼盛 雨 都在宇 或垂花下潛増墨子之悲時 舞鬢間動潘郎之思 李〔嶠〕 長楽鐘聲花外尽龍池楊色雨中〔深〕 拾遺集 霞をよむ 山部赤人 昨日こそ年はくれしか春霞春日の山にはや立ちにけり 万葉集巻第十 春雑歌 詠霞 読人不知 昨日社年者極之賀春霞春日山尓速立尓来
昨日こそ年は極(は)てしか春霞春日の山に速立ちにけり ※拾遺集では赤人だが、人丸集、家持集にも有る。万葉集では読み人知らず。 古今集 題知らず よみ人知らず 春霞たてるやいずこみ吉野のよしのの山に雪はふりつつ 出典不明 平兼盛 朝日さす峯の白雪むらぎえて春の霞はたなびきにけり 密雨散如糸序 都在宇 或垂て花下に潜かに墨子が悲を増す。 時に鬢の間に舞ひて潘郎が思を動す。 贈闕下裴舎人 李嶠 長楽の鐘の声は花の外に尽す。龍池の楊の色は雨中に深し。
紀納言 養得自為花父母洗来寧辨藥君〔臣〕 菅三品 花新開日初陽潤鳥老歸時薄暮陰 保胤 斜脚暖風先扇處暗聲朝日未晴程 さくらがり雨はふりきぬおなじくは ぬるともはなのかげにかくれむ 讀人不知 あをやぎのえだにかゝれる春さめは いともてぬけるたまかとぞみる 伊勢 梅 付紅梅 白居易 白片落梅浮澗水黄梢新柳〔出城〕墻 仙家春雨 紀長谷雄 養得ては自花の父母、洗来ては寧ろ薬の君臣を弁(わきま)ふ。 春色雨中尽 菅原文時 花の新に開る日、初陽潤ひ、鳥の老て帰る時薄暮陰(くも)れり。 微雨自東来 慶滋保胤 斜脚暖風の先扇ぐ処、暗声は朝日の未だ晴ざる程。 拾遺集 題知らず よみ人知らず 桜がり雨はふりきぬ同じくはぬるとも花のかげにかくれむ 伊勢集 歌合の時 亭子院 青柳の枝にかかれる春雨は糸もてぬける玉かとぞみる 春至 白居易 白片の落梅は澗水に浮。黄梢の新柳城墻(せいしょう)より出たり。
〔章孝標〕 梅花帯雪飛琴上柳色和煙入〔酒中〕 村上御製 漸薫臘雪新對裏偸綻春風未扇先 後江相公 青絲繰出陶門柳白玉装成庾嶺梅 菅三品 五嶺蒼〃雲往来但憐大庾万株梅 誰言春色従東到露暖南枝花始開 いにしとしねこじてうへしわがやどの わか木のむめははなさきにけり 安倍廣庭 わがせこに見せむと思ひしむめの〔花〕 それともみえず雪のふれゝば 赤人 早春初晴野宴 章孝標 梅花は雪を帯て飛琴上の、柳色は煙に和め酒中に入る。 寒梅結早花 村上天皇御製 漸く薫ず臘雪の新に対ずる裏、偸(ひそか)に綻ぶ春風未だ扇ざる先。 尋春花 大江朝綱 青糸繰出す陶門の柳、白玉装ひ成す庾嶺(ゆうれい)の梅 ※梅の字は、木の下に毎 延長中題音屏風詩 菅原文時 五嶺蒼々とて雲往来す。但憐大庾(たいゆう)万株(ばんちゅう)の梅 ※梅の字は、木の下に毎 同 菅原文時 誰言(いつ)し春の色東より到ると。露暖して南枝花始て開 拾遺集 題知らず 中納言安倍広庭 いにし年ねこじて植ゑしわが宿の若木の梅は花さきにけり 万葉集巻第八 春雑歌 中納言阿倍廣庭卿謌一首
去年春伊許自而殖之吾屋外之若樹梅者花咲尓家里
去年の春い掘(こ)じて植ゑし吾が屋外の若樹の梅は花咲きにけり 後撰集 題知らず よみ人知らず わがせこに見せむと思ひし梅の花それともみえず雪のふれれば 万葉集巻第八 春雑歌 山部宿禰赤人歌四首 吾勢子尓令見常念之梅花其十方不所見雪乃零有者 わが背子に見せむと思ひし梅の花それともみえず雪の降れれば