かをとめてたれおらざらんむめの花 あやなしかすみたちなかくしそ 躬恒 紅梅 元稹 梅含鷄舌兼紅氣江弄瓊花帯碧文 橘正通 淺紅鮮娟仙方之雪媿色濃香 芬郁妓爐之煙譲薫 前中書王兼明 有色易分残雪底無情難辨夕陽中 紀斉名 仙臼風生空簸雪野爐火暖〔未揚煙〕 拾遺集 斎院御屏風に 大河内躬恒 香をとめてたれ折らざらん梅の花あやなし霞たちなかくしそ 早春尋李校書 元稹 梅は鷄舌(けいぜち)を含紅気を兼たり。 江は瓊花(けいか)を弄て碧文(へきもん)に帯びたり。 同賦簷繞梅正開応教 橘正通 浅紅鮮娟たり仙方の雪色を媿ず。 濃香芬郁たり妓爐の煙薫を譲。 賦庭前紅梅 兼明親王 色有て分ち易し残雪底(もと)、 情(こころ)無く弁(わきまえ)難し夕陽の中(うち)。 紅白梅花 紀斉名 仙臼(せんきゅう)に風生て空く雪を簸る。 野爐火暖にし未だ煙を揚げず。
君ならでたれにかみせむ〔めのは〕な 色をもかをもしる人ぞしる 友則 色かをばおもひもいれずむめのはな つねならぬよによそへてぞみる 花山院 柳 白 林鴬何處吟筝柱墻柳誰家曝麹塵 白 漸欲拂他騎馬客未多庶得上楼人 白
巫女廟花紅似粉昭君村柳翠於眉 〔白〕 誠知老去風情少見此争無一句〔詩〕 古今集 梅の花ををりて人におくりける 紀友則 君ならでたれにか見せ梅の花色をも香をも知る人ぞ知る 新古今和歌集巻第十六 雑歌上 梅の花を見給ひて 花山院御歌
色香をば思ひも入れず梅の花常ならぬ世によそへてぞ見る よみ:いろかをばおもいもいれずうめのはなつねならぬよによそへてぞみる 備考:和漢朗詠集、古今著聞集 天宮閣早春 白居易 林鴬は何(いづれ)の所にか筝の柱を吟ず、 墻柳(しょうりゅう)は誰か家か麹塵(きくじん)を曝す。 喜小楼西新柳抽条 白居易 漸他の騎馬の客を払と欲は、未だ多は楼に上る人を遮り得ず。 題峡中石上 白居易
巫女廟の花は紅にて粉に似たり。昭君村の柳は眉より翠なり。 同上 誠知ぬ老去て風情の少きことを。これを見ていかでか一句詩なからん。
紀納言
大庾嶺之梅早落誰問粉粧
匡廬山之杏未開豈趂紅艶 田逹音 雲擎紅鏡扶桑日春嫋黄珠嫩柳風 後中書王具平 嵆宅迎晴庭月暗陸池遂日水煙深 菅三品 潭心月泛交枝桂岸口風来混葉蘋 あをやぎのいとよりかくるはるしもぞ みだれてはなはほころびにける 貫之 はるくればしだりやなぎにまよふいとの いもがこゝろによりにけるか〔な〕 内宴序停盃看柳色 紀長谷雄(大江維時)
大庾嶺(たいゆうれい)の梅は早落つ、誰が粉粧(ふんしょう)を問ん。 匡廬山(きょうろざん)の杏(からもも)は未だ開ず、あにや紅艶を趂い。 ※本書では紀納言とあるが、他本では江納言となっている。 早春作 田逹音 雲紅鏡を擎(ささ)ぐ扶桑の日。春黄珠を嫋(たわま)す嫩柳(どんりゅう)の風。 柳影繁初合詩 具平親王 嵆宅晴を迎て庭月暗し。陸池日を遂水煙深。 垂柳払緑水 菅原文時 潭心(たんしん)に月泛(うかん)で枝を交桂、岸口に風来て葉を混ずる蘋(うきぐさ)。 古今集 歌奉れとおほせられし時よみて奉る 紀貫之 青柳の糸よりかくる春しもぞみだれて花はほころびにける 万葉集巻第十 春去 為垂柳 十緒 妹心 乗在鴨 柿本人麻呂歌集 春去ればしだり柳のとををにも妹は心に乗りにけるかも 和漢朗詠集 春くればしだり柳にまよふ糸の妹が心によりにけるかな