凡物の心をしれり、しより四十あまりの
春秋を送る間に、世の不思議をみ
るをやゝたび/“\になりぬ。去安元三年
四月廿八日かとよ風はげしく吹てしづ
かならざりし夜戌のときばかり都のた
つみより火出来りて、いぬゐにいたる
はては朱雀門大極殿大学寮民
部省までうつりて、一夜が程に灰と成に
き。火本は樋口富小路とかや病人を
やどせるかりやより出来けるとなん。吹ま
よふ風にとかくうつり行程に、あふぎをひ
凡物の心を知れりしより四十余りの春秋を送る間に、
世の不思議を見るをやゝたび/"\になりぬ。去安元
三年四月廿八日かとよ。風激しく吹て静かならざり
し夜、戌のときばかり都の巽より火出来りて、乾に
いたる。果ては朱雀門大極殿大学寮民部省まで移り
て、一夜が程に灰と成にき。火本は樋口富小路とか
や病人を宿せるかりやより出来けるとなん。吹まよ
ふ風にとかくうつり行程に、あふぎをひ
(参考)前田家本
予、物の心を知れりしより、四十余りの春秋を送る間に、
世の不思議を見ること、やゝ度々になりぬ。去んじ安元
三年四月廿八日かとよ。風激しく吹きて、世しつかならさり
し夜、戌の時ばかり、都の東南より火いてきて、西北に
いたる。果てには、朱雀門、大極殿、大学、民部省まで移り
て、夜一夜のうちに塵灰となりにき。火元は樋口冨の小路とか
や。舞人を宿せる仮屋より出で来たりけるとなん。吹き舞
ふ風に、とかく移り行く程に、扇を広
(参考)大福光寺本
予モノゝ心ヲシレリシヨリヨソチアマリノ春秋ヲゝクレルアヒタニ
世ノ不思議ヲ見ル事ヤゝタヒタヒニナリヌ去安元
三年四月廿八日カトヨ風ハケシクフキテシツカナラサリシ
夜イヌノ時許ミヤコノ東南ヨリ火イテキテ西北
ニイタルハテニハ朱雀門大極殿大学レウ民部省ナトマテウツリ
テ一夜ノウチニ塵灰トナリニキホモトハ桶口冨ノ小路トカ
ヤ舞人ヲヤトセルカリヤヨリイテキタリケルトナンフキマヨ
フ風ニトカクウツリユクホトニ扇ヲヒロ
頭注
きせぬものかと思ひ侍
りて心を付てたづぬればむかし有し家はまれ
なりとかや其ありさま
末のことばに◯也。
むかし有しいゑはまれ也
堀川百首にも
昔みしいもがかきねはあれにけり
つはなましりのすみれのみして
いにしへ見し人は二三十人が中
にわづかに一人二人也
白居易詩云二十年
來旧詩巻十人酬和九人無
あしたに死し夕にむまる
ならひ 荘子曰朝菌