近代會狼藉事
この比人/\の會につらなりて見ればまづ會所の
しつらひよりはじめて人の装束のうちとけたる
さまをの/\がけしきありさまみだれがはしき事
かぎりなし。いみじう十日はつかかけて題をいだし
たれど日比はなにわざをしけるにか當座にのみ
哥をあんじてすゞろに夜をふかしてけふを
さましひかうのときをわかず心/\に物語をし
先達にもはぢず面〃に證得したるけしき
どもははなはだしけれどげに哥のさまをしり
てほめそしる人はなし。まれ/\ふるき人の
よきあしきをさだむるも人のけしきをはか
らひ偏頗をさきとしたれば案ずるにつけて
もあぢきなくよろしき哥をよめるにつけても
よるのにしきにことならず。たかく詠ずるをよ
きことゝしてくびすぢをいらゝかしこゑをより
あはせたるさまなどいみじう心づきなし。すべてにぎ
はゝしきにつけてもしなゝくやさしがるにつけて
もわざとびたり。げには人の心のそこまですかず
してたゞ人まねにみちをこのむゆへなめりとぞ
おぼえ侍とぞ。
近代会狼藉事
「この比人々の会に連なりて見れば、まづ会所のしつらひ
より始めて、人の装束のうち解けたるさま、各々が気色有
様、乱れがはしき事限りなし。いみじう十日二十日かけて
題を出したれど日比は何わざをしけるにか、当座にのみ歌
を案じてすぞろに夜を更して興をさまし、披講の時を分か
ず心々に物語をし、先達にもはぢず、面々に証得したる気
色どもは甚だしけれど、げに歌のさまを知りて讃め謗る人
は無し。まれまれ古き人の良き悪しきを定むるも、人の気
色を計らひ偏頗を先としたれば、案ずるに付けてもあぢき
なく、宜しき歌をよめるに付けても、夜の錦に異ならず。
高く詠ずるをよきこととして首筋をいらゝかし声をよりあ
はせたる様など、いみじう心付なし。すべてにぎははしき
に付けても品なく、やさしがるに付けてもわざとびたり。
げには人の心の底まで好かずして、ただ人まねに道を好む
故なめりとぞ覚え侍」とぞ。
※そぞろに 漫然と
※披講の時を分かず 披講のしている時も私語を続けて
※証得したる 驕った様子で
※偏頗 えこ贔屓して
※夜の錦 史記項羽本紀「富貴不帰故郷如衣繍夜行」、古今集「見る人もなくて散りぬる奥山のもみぢは夜の錦なりけり」
※いららかし 怒(いから)かしの誤記か不明。歌会では講師が首を動かす作法とも。
※わざとび 態(わざと)ぶ。わざとらしい。