式子内親王 号萱斎院
後白河院第三皇女母從三位成子大納言季成卿
女云云。加茂の斎院にて准后になり給へり。鵜本云
萱斎院・二条院讃岐・宜秋門院丹後・宮内卿・亡父卿
の女など女房にはすぐれてきこえ侍る。さま/"\此
人のおもひいれたる哥をば、かの有家・雅經・道具・家
隆も読ぬきがたくや侍らん云云。
玉のをよたえなば絶ねながらへばしのぶる事のよはりもぞする
新古今恋一、百首のうたの中に忍ぶ恋の心を云云。
※鵜本 愚秘抄。定家に仮託した偽書
※亡父卿の女 俊成卿女
※かの有家・雅經・道具・家隆 新古今和歌集撰者で仮託された定家を除く。
※道具 通具の誤字
玉の緒よたえなば絶ねとは、わが命絶べくは今絶よかしと也。
哥心は御抄云、しのびあまるおもひををしかへし/\、月日をふ
るに、かくてもながらへば、かならずしのぶ事のよはりこそ
せめとおもひ侘て、玉の緒よたえなば絶ねといへり。堪忍
性のある時に、命も絶よと也。其故は、忍ぶる事のよはり
てと思ひの顕れはいかなる名があらはれんなどゝふかくしのぶ心
なり。猶よはりもぞするの詞おもしろくや侍らん。大かたならば、
よはりもやせんと讀べきを、もぞすると治定したる所眼を
つくしながらへたらば、かならず名にたゝん事を物とし
つけたる詞なるべし。
※御抄 細川幽斎の百人一首解説本。幽斎抄。