四十九 業平ノイモウト むかし男いもふとの、いとおかしげなりけりを、見をりて うらわかみねよげに見ゆる若草を人のむすばんことをしぞ思ふ と聞へけり。かへし 初草のなどめずらしきことのはぞうらなく物を思ひけるかな 五十 むかし男ありけり。うらむる人をうらみて 鳥の子を十つゝ十はかさぬとも思わぬ人を思ふ物かは といへりければ あさ露はきへのこりても有ぬべし誰か此世を頼み果べき 又おとこ ふく風にこぞの桜はちらずともあな頼みがた人の心は 又女かへし 古今◯作者 ゆく水に数かくよりもはかなきは思はぬ人をおもふなりけり 又おとこ
ゆく水と過るよはひと散花といづれまててふことを聞らん あだくらべ、かたみにしける、男女のしのびありきしける事成べし。 五十一 むかし男人のせんざいに、菊うへけるに 古今 うへしうへば秋なき時や咲ざらん花こそちらめねさへ枯めや 五十二 むかし男有けり。人の件より、かざり粽おこせたりける返事に あやめかり君はぬまにぞまどひける我は野に出てかるぞ佗しき とてきじをなんやりける。 五十三 昔男あひがたき女に逢て、物語などする程に、鳥のなきければ いかでかは鳥のなく覧人しれず思ふ心はまだ夜ふかきに 五十四 むかし男つれなかりける女にいひやりける 行やらぬ夢路をたどる袂には天津そらなる露や置らん 五十五 昔男思ひかけたる女の、えうまじうなりてのよに 思はずは有もすらめと言のはの折ふしごとに頼るゝかな 五十二段 逢ひがたき女