がたし。いきおひ有者は貪欲ふかく、ひ
とり身なるものは人にかるしめらる。寶
あればおそれおほく、貧しければ歎切
也。人をたのめば身他のやつことなり、人
をはごくめば、心恩愛につかはる。世にした
がへば身くるし又したがはねば狂へるに似
たり。いづれのところをしめ、いかなるわざを
してか、しばしも此身をやどし、玉ゆらも心
をなぐさむべき。わが身父方の祖母の家
を傳へて、久しく彼所にすむ。その後
縁かけ、身おとろへてしのぶかた/"\しけか
難し。勢ひ有者は、貪欲深く、ひとり身なる者は、人にかるしめらる。 宝あれば恐れ多く、貧しければ歎き切也。人を頼めば、身、他の奴 となり、人をはごくめば、心、恩愛につかはる。世に従へば、身苦し。 又、従はねば狂へるに似たり。いづれの所を占め、いかなるわざを してか、しばしも此の身を宿し、玉ゆらも心を慰さむべき。 我が身、父方の祖母の家を伝へて、久しく彼の所に住む。その後、 縁欠け、身衰へて、忍ぶ方々しげか (参考)前田家本 だし。また、勢いある者の、貪欲深く、独身なる物は、人に軽めらる。 宝あれば、恐れ多く、貧しければ、うらみ切なり。人をたのめば、身他の有 となり、人をはぐくめば、恩愛につかはる。世に従えば、身苦し。 従はねば、犯せるに似たり。いづれの所をしめ、いかなるわざを してか、しばしもこの身をやどし、たまゆらもこころをやすむべき。 我が身、祖母の家を伝へて、久しく彼の所に住む。その後、 身衰へて、しのぶ方々しげか (参考) 大福光寺本 タシ。又イキヲヒアル物ハ貪欲フカク独身ナル物ハ人ニカロメラル。 財アレハヲソレオホクマツシケレハウラミ切也。人ヲタノメハ身他ノ有 ナリ。人ヲハククメハ心恩愛ニツカハル世ニシタカヘハ身クルシ。 シタカハネハ狂セルニゝタリ。イツレノ所ヲシメテイカナルワサヲ シテカシハシモ此ノ身ヲヤトシタマユラモコゝロヲヤスムヘキ。 ワカゝミ父カタノ祖母ノ家ヲツタヘテヒサシク彼ノ所ニスム。其後 縁カケテ身ヲトロヘシノフカタカタシケカ風ふけばおきつ白波たつた山 夜半にや君がひとりゆくらん 家を出 出家也 比丘有、 三議怖魔破悪乞士 出家將離生死乗於 魔意故魔而名怖魔 又出家破身口七支 之悪。故云破悪乞法下 於衆生乞食也。 もとより妻子なければ すてがたきよすがもなし 古今集 世のうきめみえぬ山路へいらんには おもふ人こそほだしなりけれ かり人の一夜の宿 老 ※比丘有 維摩詰所説経 仏国品第一に近い経文がある。 糺の森