かんこくさんがあり。しんりやうそうじゆふかし。ぼうんせんりのいろ。 ところとしてこゝろをいためしめざるはなし。 ぢをんじのとふに上りて、のぞみ見れば、かんの世よりのやまや河はいまがはらずあり。 しんのしくはうのみさゝぎも、くさ木おひしげりて、 あれはてゝ見ゆ。むかしとは事かわり寂しきけしき なりごとくに夕ぐれの雲がせん里もおなじき見る物こと/\くしろをいためざるはなしとなり。 じおんとうにだいす けいしゆく 題慈恩塔 荊叔 漢国山河在秦陵 草樹深暮雲千里 色無處不傷心
慈恩塔に題す 荊叔 漢国山河在り。 秦陵草樹深し。 暮雲千里の色、 処として心を傷めざるは無し。 意訳 長安の漢の地には、山河が変わらぬ姿を残している。 しかし、秦の始皇帝陵には、草木が深く生い茂っている。 日暮れの雲は、千里の彼方まで同じ夕の色が続いていて、 どこを眺めても、心を傷めない処は無い。 ※慈恩塔 長安(西安市)の東南の大慈恩寺。そのお寺の中にある大雁塔。 ※秦陵 秦の始皇帝陵は、長安の東の驪山にある。