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八雲御抄 正義部 七病 蔵書

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八雲抄巻第一 正義部

 

 

 

 七病 濱成式

一 頭尾病 發句終㐧二句終同

春ふかみゐでの川浪立かへり

みてこそゆかめやまぶきの花

秌のたのかりほのいほの苫をあらみ

我衣手はつゆにぬれつゝ

春深みの「み」とゐでの河浪の「み」と也。此等はさたの外の事也。

二 胸尾病 發句終㐧二句上六字同也。

なにしをはゞ秋ははつとも松虫の

聲はたえせずきかんとぞ思ふ

と山にはしばの下葉もちりはてゝ

をちのたかねにゆきはふりつゝ

「なにしをはゞ」の「ば」と「秌は」の「は」なり。

三 膞尾病 他句終与本韻同也。三句終焉本韻也。

山風にとくる氷のひまごとに

うちいづるなみや春のはつ花

こほりだにとまらぬ春の谷風に

まだうちとけぬうぐひすの聲

俊頼曰、「古人雖難先規誠多之」

四 厭面子病 五句中本韻下同字有也。或謂巨病(靨?)

花だにもちらで別る春ならば

いとかくけふはをしまざらまし

梅花しるかなくしてうつろはゞ

雪ふりやまぬ春とこそみめ

是は、下五文字に、同字也。此たぐひ数をしらず多し。

五 遊風病 一句中の字と終字と同也。

春たゝば花みんと思ふ心こそ

野べの霞にだちまさりけれ

人傳にしらせてし哉かくれぬの

みごもりにのみ恋やわたらん

句内同字なり。

六 聲歌病 二韻同字也。

足引の山がくれるなさくら花

散のこれりと風にしらすな

一えづゝ八重山吹はひらけなん

程へてにほふ花とたのまん

「さくら花」の「な」と「しらすな」の「な」のと也。上句の「の」字本

韻也。下句末同字也。 俊頼「此病咎あり共不聞」

といへり。誠に可去にあらず。

七 遍身病 二韻中本韻二字以上を除同字有也。新撰髄脳禁之。

とこ夏のにほへる庭はから国に

をれるにしきもしかじとぞ思ふ

白雲とみゆるにしるしみよしのゝ

よしのゝ山のはなざかりかも

これは、同字ある事也。同字有三は、号蜂腰、有

四は、号鶴膝。近代不禁上古多。

又新撰髄脳禁曰、「くらはしの山のかひよりといへるの

字、ならびたる事禁之」、「山ざとのそとも」などいへる

たぐひかずしらず多し。又、「長井のうらのさゞれ石の」

といひ、花だにもちらで別かる春ならばいとかくけふは」と

いへえるはもじのはてのさしあひたる事也。近く「しほがまの

浦吹風に霧晴て八十嶋かけて」といへる「て」もじ也。

已上二は新撰髄脳禁也。

以上式々禁也。此外、古人禁來事。

一 恋しさはおなじ心にあらずとも今夜の月を君み

ざらめや 秋風に聲をほに上てくるゝにはあまの

とわたる鴈にぞありける

あきかぜの「あ」、あまのとの「あ」なり。㐧一始字㐧四

始字同なり。号、平頭病云々。

一 涙河いかなる水がながるらむなど我恋をけつ人のなき

毎句上同字ある也。二字は常時、三字を禁なり。

一 八千代へん宿に匂へる八重桜八十うち人もちらでよそみめ

とよめるは、高陽院哥合哥なれど、是はわざとよめ

る也。「みさぶらひみかさと申せみやぎのゝ」などいふ躰也。

住吉哥合に、此病俊成難之。

一 終七字が、八ある也。号孟躰涙成禁之。古今非沙汰之

限。亭子院哥合左勝躬恒、「ちりにし梅の花にぞ有

ける」。其外不可勝斗。

已八病、万葉已下葉には皆以有之。不可勝斗。近代又無

禁之。上古哥は殊同事多也。㐧一同心病許所禁來也。非

哥合之外者、代々撰集不洩。近年も難なれども入集

は不為難之家隆、「ことぞともなく…はかなの夢の」といへ

る無の字二也。寂蓮が「物思ふ袖より露や」といひて「たえ

ぬ物」とはいへる「物」字二なり。さやうの事近比も多し。

仰句のならひぬるは、不為病。而俊頼抄出病例、尤不

得心多。更に今古不憚ことなり。隔句同事のあるを

為病也。 俊成曰、凡万葉已下哥は、同事を二句比詠

而、「あさか山…あさくは」といひ、「み山には…都は野べの」といへ

るを、非病之由に殊成事、古人の所為なれ共、尤無

由。彼をば唯病、沙汰なくよめる哥云々。誠上古事如然歟。

 

 

※読めない部分は、国文研鵜飼文庫を参照した。

※春ふかみ 拾遺和歌集巻第一 春歌 源順 68
春ふかみ井手のかはなみ立ちかへり見てこそゆかめ山吹の花

※秌のたの 後撰和歌集巻第六 秋歌中 天智天皇御製 302 百人一首
秋の田のかりほのいほのとまをあらみわか衣手はつゆにぬれつつ

※なにしをはゞ 寛和二年内裏歌合 大中臣能宣
なにしおはば秋ははつとも松虫のこゑをはたえず聞かむとぞ思ふ

※と山には 千載和歌集巻第六 冬歌 藤原顕綱朝臣 453
と山にはしはのした葉も散り果ててをちの高嶺に雪降りにけり

※山風に 寛平御時中宮歌合 源当純
山風にとくる氷のひまごとにうち出づる波や春の初花

※こほりだに 拾遺和歌集巻第一 源順 6
氷だにとまらぬ春の谷風にまだうちとけぬ鴬の声

※花だにも 金葉集初度本、三奏本 春歌下 藤原朝忠 天徳四年内裏歌合
はなだにもちらでわかるるはるならばいとかくけふとをしまざらまし

※梅花 寛平御時后宮歌合 読人不記 5
梅のはなしるきかならでうつろはばゆきふりやまぬはるとこそみめ

※春たゝば 不詳。ただし、後撰和歌集巻第三 春歌下 典待藤原因香朝臣 112
はるくれば花見にと思ふ心こそのへの霞とともにたちけれ

※人傳に 新古今和歌集巻第十一 恋歌一 1001
 天暦御時歌合に 中納言朝忠
人伝に知らせてしがな隠沼のみごもりにのみ恋ひや渡らむ

よみ:ひとつでにしらせてしがなかくれぬのみごもりにのみこいやわたらむ 隠

意味:人伝にでも私の想いをあの人に知らせたいものだな。隠れた沼の水の中に篭って、人に知られないような恋しているが、続けていくことができないかもしれないから。

備考:天暦四年内裏歌合。

※足引の 拾遺和歌集巻第一 春歌上 少弐命婦 66
あしひきの山かくれなるさくら花ちりのこれりと風にしらるな

※一えつゝ 天徳四年内裏歌合 平兼盛 17
ひとへつつ八重山吹は開けなむほとへて匂ふ花とたのまむ

※とこ夏の 後拾遺和歌集巻第三 夏歌 藤原定頼 225
常夏のにほへる庭はから国におれる錦もしかしとぞ思ふ

※白雲と 詞花集 春歌 大江匡房
白雲とみゆるにしるしみよしののよしのの山の花ざかりかも

※くらはしの 金葉集初度本、三奏本 春歌 藤原朝忠
くらはしの山のかひより春霞としをつみてや立ち渡るらむ
天徳四年内裏歌合、公任三十六人撰、俊成三十六人歌合

※山ざとの 金葉集初度本、二度本、三奏本 弘徽殿女御歌合
山里のそともの小田の苗代にいはまの水をせかぬ日ぞなき

※長井のうらの 新千載集
君が代は長井の浦のさざれ石の岩根の山となり果つるまで

※花だにも 金葉集初度本、三奏本 天徳四年内裏歌合 藤原朝忠
花だにも散らで別るる春ならばいとかく今日と惜まざらまし

※恋しさは 拾遺和歌集巻第十三 恋歌三 源実明 787
こひしさはおなじ心にあらずともこよひの月を君見ざらめや

※秋風に 古今和歌集巻第四 秋歌上 藤原菅根 212
あき風にこゑをほにあけてくる舟はあまのとわたるかりにそありける

※涙河 亭子院歌合 凡河内躬恒
なみた河いかなる水がながるらむなど我が恋をけす人のなき

※八千代へん 高陽院七番歌合 讃岐君
や千代へむやどににほへるやへ桜やそうぢ人もちらでこそみれ

※みさぶらひ 古今和歌集巻第二十 大歌所歌 東歌
みさぶらひみかさと申せみや木ののこのしたつゆは雨にまされり

※ちりにし梅の 新勅撰集 亭子院歌合 坂上是則 36
きつつのみ鳴く鴬のふるさとは散りにし梅のはなにぞありける

※ことぞもなく 新古今和歌集巻第十五 恋歌五 1386
 百首哥奉りしに 藤原家隆
逢ふと見てことぞとも無く明けぬなりはか無の夢の忘れ形見や

よみ:あうとみてことぞともなくあけぬなりはかなのゆめのわすれがたみや 隠

意味:今夜はあの人に逢えるかもと思いながら、結局何という事も無く夜は明けてしまった。あの人への思いは、儚い夢の忘れ形見なのだろう。

備考:正治二年後鳥羽院初度百首。本歌 秋の夜も名のみ也けり逢ふといへばことぞともなく明けぬるものを(古今集 小野小町)

※物思ふ袖 新古今和歌集巻第五 秋歌下 469
百首歌たてまつりし時  寂蓮法師
物思ふそでより露やならひけむ秋風吹けば堪へぬ物とは

よみ:ものおもうそでよりつゆやならいけむあきかぜふけばたえぬものとは 隠

意味:私の物思いにふけて涙が溜まる袖から露は習ったのかもしれない。秋風が吹けば、絶えずこぼれてしまう習性があるとは。

備考:正治二年後鳥羽院初度百首。堪へぬと絶えぬ、耐へぬとの解釈が、古来からあり、表記もへとえとする異本も分かれる。

※あさか山 万葉集巻第十六 3807 古今和歌集仮名序歌
安積香山 影副所見 山井之 淺心乎 吾念莫國
右歌、傳云葛城王遣于陸奥之時、國司祇承緩怠異甚。於時王意不悦。怒色顕面。雖設飲饌、不肯宴樂。於是有前采女、風流娘子。左手捧觴、右手持水、撃之王膝、而詠此謌。尓乃王意解悦、樂飲終日

※み山には 古今和歌集巻第一 春歌上 よみ人知らず 18
みやまには松の雪たにきえなくに宮こはのへのわかなつみけり


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