上巻 9頁ウー10頁オ 中院通村筆
春をあさみ旅のまくらを結べき
草葉もわかきころにもあるかな
こひ
ふるさとをこふるた本はきしちかみ
おつる山水いづれともなし
ある所にさくらおしむに
櫻花まつとせしまに春くれて
そならぬ事は思やはする
山ざとに人の許にてさくら
のちるをみて
さくらちる春の山べはうかりけり
新
世をのがれにとこしかひもなく
年かへりて二月になるまで
まつ人のをとづれねば
いひやる
もゝちどりこゑのかぎりはなき
ふりぬ
まだをとづれぬ物は君のみ
春を浅み旅の枕を結ぶべき草葉も若き比にもあるかな
恋
故郷を恋ふる袂は岸近み落つる山水いづれともなし
ある所に桜惜むに
櫻花待つとせしまに春暮てそならぬ事は思ひやはする
山里に人の許にて桜の散るを見て
桜ちる春の山辺はうかりけり世をのがれにとこしかひもなく
新古今和歌集巻第二 春歌上
題知らず 恵慶法師
桜散る春の山べは憂かりけり世をのがれにと来しかひもなく
よみ:さくらちるはるのやまべはうかりけりよをのがれにとこしかいもなく 隠 定隆雅
意味:桜の散る春の山辺に行くと、花を惜む気持ちの執着に心が迷ってしまう。折角世の中の憂きを遁れようとこの山里にやって来たのに甲斐のない事だ。
備考:恵慶集では「山里」は「山寺」とある本もある。
年かへりて二月になるまで待つ人の訪れねば言ひやる
もも千鳥声の限りは鳴きふりぬまだ訪れぬ物は君のみ