恵慶法師 七首
平安中期(主に村上天皇期に活躍)の僧。生没年不明。出自・経歴不詳。大中臣能宣・紀時文・清原元輔など中級の公家歌人と交流していた。 春歌上 題知らず 桜散る春の山べは憂かりけり世をのがれにと来しかひもなく 隠 定隆雅 夏歌 題知らず わが宿のそともに立てる楢の葉のしげみに涼む夏は来にけり 隠 有 秋歌下 題知らず 秋といへば契り置きてや結ぶらむ浅茅が原の今朝のしら露 隠 定 羇旅歌 わぎも子が旅寝の衣薄きほどよきて吹かなむ夜半の山かぜ 隠 定 雑歌中 長柄の橋をよみ侍りける 春の日のながらの浜に船とめていづれか橋と問へど答えぬ 隠 隆 ぬしなき宿を 古へを思ひやりてぞ恋ひわたる荒れたる宿の苔のいはばし 隠 有隆 深き山に住み侍りける聖のもとに尋ね罷りた りけるに庵の戸を閉ぢて人も侍らざりければ 歸るとて書きつけける 苔の庵さして来つれど君まさでかへるみ山の道ぞつゆけき 隠 有定隆雅 その他 切出歌 秋歌下 高砂の尾上にたてる鹿のねにことのほかにもぬるる袖かな ※金葉集三奏本に撰歌済み歌が誤入による。 雑歌中 聖後見て返し (聖) 荒れ果てて風も障らぬ苔の庵にわれはなくとも露はもりけむ 隠 有定隆雅 和漢朗詠集 納涼 松蔭の岩井の水を結びつゝ夏なきとしと思ひけるかな 歌碑 奈良県吉野 転寝橋 橋の名をなほうたた寝と聞く人の聞くは夢路か現ながらに 金沢市中村美術館蔵 恵慶集 天乃川影を宿せる水鏡織女の逢ふ瀬知らせよ 河原院にて、しほかま、うきしまと いふ事を人々よむに わたの原潮みつほどのうきしまをさためなき世にたとへてそ見る しほかま あまもなくうらもさひしきしほかまの人の心をやくはかり也 百人一首 拾遺集 八重葎茂れる宿の寂しきに人こそ見えね秋は来にけり![](http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/54/f1/84903cc29b7e67d92006dfdb3808ef09.jpg)