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Channel: 新古今和歌集の部屋
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絵入横本源氏物語 賢木 弘徽殿女御の立腹 蔵書

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かのみかたにこそ御心よせ侍めりしを、

そのほいたがふさまにてこそは、かくて

もさふらひ給ふめれと、いとおしさに

いかでさるかたにても、人にをとら

ぬさまにもてなし聞えん、さばかり

ねたげなりし人の、みる所もあり

などこそは思侍つれど、しのびゐて、
朧の
わが心のいるかたになびき給にこそ

は侍らめ。斎院の御ことはまして

さもあらん。なにごとにつけても、おほや

けの御かたにうしろやすからずみ

ゆるは、春宮"の御世こころよせこと

なる人なれば、ことはりになんあめる
                   右大臣心
と、すく/\しうの給ひつゝくるに、さす

がにいとおしう、など聞えつることぞ
          詞
とおぼさるれば、さばれ、しばしこの

こともらし侍らじ。内にもそうせさせ給

な。かくのごとつみ侍りとも、おぼしすつ

まじきをたのみにて、あまえて侍なる

べし。うち/\にせいしの給はんは

きゝ侍らずはそのつみにたゞみつか

らあたり侍らんなど、聞えなをし
     ◯
給へど、ことに御けしきもなをらず。

かくひと所におはしてひまもなき

につゝむ所なうさていり物せらる

らんは、さらにかろめろうせらるゝに
               地
こそはと、おぼしなすに、いとゞいみ
             じう
めさましく、このついでにさるべき

ことゞもかまへいでんに、よきた

よりなりとおぼしめぐらすべし

 

彼の御方(みかた)にこそ、御心寄せ侍るめりしを、その本意違

ふ樣にてこそは、かくてもさぶらひ給ふめれど、いとおしさに、

如何でさる方にても、人に劣らぬ樣にもてなし聞こえん、さばか

りねたげなりし人の、見る所も有りなどこそは、思ひ侍りつれど、

忍びゐて、わが心の入る方になびき給ふにこそは、侍らめ。斎院

の御事は、ましてさもあらん。何事につけても、公の御方に後ろ

安からず見ゆるは、春宮の御世、心寄せ異なる人なれば、理りに

なんあめる」と、すくすくしう宣ひ続くるに、流石にいとおしう、

など聞こえつる事ぞと、おぼさるれば、

「さばれ、暫しこの事、漏らし侍らじ。内にも奏せさせ給ふな。

かくのごと、罪侍りとも、おぼし捨つまじきを、頼みにて、甘え

て侍るなるべし。内うちに制し宣はんは、聞き侍らずは、その罪

に、ただ、自らあたり侍らん」など、聞こえ直し給へど、ことに

御気色も直らず。かく一所におはして、隙も無きに、包む所なう。

さて、入り物せらるらんは、更に軽め、弄せらるるにこそはと、

おぼしなすに、いとどいみじうめざましく、この次いでに、さる

べき事共、構へ出でんに、よき便りなりと、おぼしめぐらすべし。

源氏五十四帖 さかき

 

 


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