冬哥
千五百番哥合に初冬 俊成卿
おきあかす秋のわかれの袖の露霜こそむすべ冬やきぬらん
めでたし。 九月尽の夜、秋をゝしみて、おきあかす
袖の涙の、霜になりぬるは、はや冬の来つるにやと也。
春日社哥合に落葉といふことをよみて奉りし
慈圓大僧正
木葉ちる宿にかたしく袖の色をありともしらで行嵐哉
詞めでたし。 袖の色とは、例の紅の涙にそまりた
るをいふ。それも紅葉と同じ色なるに、嵐の、ころをば
有ともしらで、過行よとなり。
通具卿
木葉ちる時雨やまがふ我袖にもろき涙の色と見るまで
一首の意、我袖にもろく落る紅の涙の色と見ゆるまで
に、時雨のまがひてふるは、木葉のまじりてふる時雨にて
や。かやうに(色の)まがひて見ゆらんとなり。
雅經
うつり行雲に嵐の聲すなりちるかまさきのかづらきの山
いとめでたし。詞めでたし。葛城山を見渡せば、嵐にふ
かれて、うつりゆく雲に、その嵐の聲のするは、まさきのかづ
らのちると也。下句勢ひあり。此卿の得られたる所なり。
七條院大納言
初しぐれしのぶの山のもみぢ葉を嵐ふけとは染ずや有けん
初時雨の初も、しのぶも、下にかけ合なし。もしは初時雨は、
はじめよりといふ意。しのぶは嵐にしられじと忍びし
意にいへるにやあらん。三の句のを°もじも、いさゝか心ゆかず。
結句、あるらんとある本はわろし。古今√たらちねは云々。
祝部成茂
冬の来て山もあらはに木葉ふり残る松さへ峯にさびしき
あらはになれる梢のさびしきのみならず、残れる松の
葉はさびしかるまじきことわりなるに、それさへさびしと也。
さて此哥、上句少しくだ/"\しく、三の句は殊によろしからず。
すべてて°といはでは落居ぬ句を、さはいひがたくて、て°をは
ぶきたるは、聞ぐるしき物なり。此哥句も、必木葉ふりて
といふべきを、さはいひがたければ、せんかたなし。下句も、ぞ°
又はや°などいふてにをはなくして、し°き°ととまりたるは、
とゝのはず。後の哥に此格多し。いと聞ぐるしき物也。
書込み
初メシグレノ紅葉ヲハメントキ
※初しぐれしのぶの山のもみぢ葉の