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西行物語絵巻 葛城山 蔵書

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このいはやにて往生をとげばやとおもひけ

れども先達ゆるさゞりければこゝろならず

いでつらなりてゆくほどに大和國まぢかくな

りて人ざとわづかにみえてふるきはたの

そばにはとのこゑおりからにや心ぼそくき

こゆるにまたかつらぎ山をみやればときまどは

せるもみぢのみえければあれはいかにと人に

たづねければまさきのかづらにていつもわか


ぬもみぢと申せば

かつらぎやまさきの色はあきにゝて

よそのこずゑはみどりなるかな

ふるはたのそばのたつさきにゐるはとの

ともよぶこゑのすごきゆふぐれ

ゆふされやひばらがみねをこへゆけば

すごくきこゆるやまばとのこゑ

 

 

大和の國かつらぎ山

 




この岩屋にて、往生を遂げばやと思ひけれども、先達、許さざりければ、心な

らず出でつらなりて行くほどに、大和国間近くなりて、人里わづかに見えて、

古き畑のそばに鳩の声、折りからにや心細く聞ゆるに、又、葛城山を見やれば、

時惑はせる紅葉の見えければ、

「あれは如何に」と人に尋ねければ、

「正木のかづらにて、いつも分ぬ紅葉」と申せば、

葛城や正木の色は秋に似てよその梢は緑なるかな

古畑のそばの立つさきにゐる鳩の友呼ぶ声のすごき夕暮

夕されや檜原が峯を越へゆけばすごく聞ゆる山鳩の声

大和の国葛城山

 




西行物語
葛城や正木の色は秋に似てよその梢は緑なるかな

山家集
 かつらぎを過ぎ侍りけるに、折りにもあらぬ紅葉の
 見えけるを、何ぞと問ひけれは、正木なりと申しけ
 るを聞きて
かつらぎやまさきの色は秋に似てよそのこずゑはみどりなるか

 

西行物語
古畑のそばの立つさきにゐる鳩の友呼ぶ声のすごき夕暮

山家集    題知らず
ふるはたのそばのたつきにゐるはとの友よぶこゑにすごき夕暮

異本山家集  述懐の心を
ふるはたのそばのたつ木にゐるはとの友よぶこゑのすごき夕暮

新古今和歌集巻第十七 雑歌中
 題しらず
古畑のそばのたつ木にゐる鳩の友よぶ聲のすごきゆふぐれ

よみ:ふるはたのそばのたつきにいるはとのともよぶこえのすごきゆうぐれ 定隆 隠

意味:荒れた畑の岨に立つ木で止まっている鳩の、友の呼ぶ声が凄く、もの寂しさを増す夕暮れだな

備考:岨は、崖。

 

西行物語
夕されや檜原が峯を越へゆけばすごく聞ゆる山鳩の声

山家集 暮山路
ゆふされやひはらのみねをこえ行けはすこくきこゆるやまはとのこゑ

異本山家集
 東国修行のとき、ある山寺にしはらく侍りて
ゆふされやひはらかみねをこえ行けはすこくきこゆる山はとのこゑ








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