摂政大納言に侍ける時よませ侍ける山家雪
まつ人のふもとの道は絶ぬらん軒端の杦に雪おもるなり
めでたし。 軒端なる杦に、雪のふりつもりて、次
㐧におもりゆくをみて、待人の來べき、ふもとの道は、絶ぬら
むとおもひやれるなり。
同家にて所の名をさぐりて冬ノ哥よませ侍ける
に伏見里の雪 有家朝臣
夢かよふ道さへたえぬくれ竹のふし見のさとの雪の下折
めでたし。 ふし見といふ、夢の縁也。 下をれは、
下をれの聲に也。 よくとゝのへる哥なり。
守覚法親王五十首に 俊成卿
雪ふれば峯のまさかきうづもれて月にみがける天のかぐやま
月にみがけるとは、雪にうづもれたるうへに、月影のさすを
いへるか。もし然らば、雪の詮なし。榊葉を月影にみがく
事は、雪にうづまずとも、然いふべければ也。もし又月にみがく
べき榊葉は、雪にうづもれて、天の香山の、すべてをみがける
といへる意にや。さるにては、詞たらで、たしかならず。
雪のあした大原にて 寂然
尋ね來て道わけわぶる人もあらじいくへもつもれ庭の白雪
千五百番哥合に 通具卿
草も木もふりまがへたる雪もよに春まつ梅の花の香ぞする
春まつといふこと、用なく聞ゆ。
百首哥奉りし時 式子内親王
日数ふる雪けにまさる炭がまの煙もさびし大はらの里
初二句は、雪の日数へてふれば、寒きまゝに、いよ/\炭を多
くやく故にいふ。 一首は、烟のしげきは、つねにはにぎはし
き事にするを、これは、まさるもいよ/\さびしといふ趣也。
年の暮に人につかはしける 西行
おのづからいはぬをしたふ人やあるとやすらふ程に年のくれぬる
おのづからは、したふといふへかゝれり。いはぬは、とひ來よともいは
ぬ也。 やすらふは、俗にみあはせてゐるといふ意也。 一首
の意は、自然とあなたよりしたひて、とひくる人やある
と、やすらひて、こなたよりは、とへとも何ともいはずてある
ほどに、はや年もくれぬるを、つひにとふ人もなしとなり。
としのくれに 俊成卿女
へだてゆくよゝの面影かきくらし雪とふりぬる年のくれ哉
初句は、年の重なれば、過しかたは、次㐧にへだゝりゆくも
のなれば、年の暮によし有。