春
昌陸の松とは尽ぬ御代の春 李重
元日の木の間の競馬足ゆるし 重五
初春の遠里牛のなき日哉 昌圭
けさの春海はほどある麥の原 雨桐
門は松芍薬園の雪さむし 舟泉
鯉の音水ほの闇く梅白し 羽笠
舟/\の小松に雪の残けり 且藁
曙の人顔牡丹霞にひらきけり 杜國
腰てらす元日里の眠りかな 犀夕
星はら/\かすまぬ先の四方の色 呑霞
けふとても小松負ふらん牛の夢 聴雪
朝日二分柳の動く匂ひかな 荷兮
先明て野の末ひくき霞哉 同
芹摘とてこけて酒なき瓢哉 且藁
しやうりくのまつとはつきぬみよのはる 李重(御代の春:春) ぐわんじつのこのまのけいばあしゆるし 重五(元日:春) はつはるのとほざとうしのなきひかな 昌圭(初春:春) けさのはるうみはほどあるむぎのはら 雨桐(今朝の春:春) かどはまつしやくやくゑんのゆきさむし 舟泉(門松:春) こいのおとみづほのぐらくうめしろし 羽笠(梅:春) ふねぶねのこまつにゆきののこりけり 且藁(残雪:春) あけぼののひとがほぼたんかすみに ひらきけり 杜國(霞:春) こしてらすぐわんじつさとのねむりかな 犀夕(元日:春) ほしはらはらかすまぬさきのよものいろ 呑霞(霞:春) けふとてもこまつおふらんうしのゆめ 聴雪(小松:春) あさひにぶやなぎのうごくにほひかな 荷兮(柳:春) さきあけてののすゑひくきかすみかな 荷兮(霞:春) せりつむとてこけてさけなきふくべかな 且藁(芹摘:春)
※昌陸 里村昌陸。江戸時代初期の連歌師。将軍家の栄寵を受ける。 ※松とは尽きぬ 謡曲高砂より。 ※腰てらす 白居易「暖床斜臥日曛腰」より。 ※朝日 朝日さす岸の青柳えちなびき春くるかたはまづしるきかな(拾遺愚草員外 藤原定家)より。