喜多川歌麿 見立伊勢物語 武蔵野
十昔、男、むさしの国までまどひありきけり。扨其国にある女を、よ
ばひけり。ちゝはこと人にあはせんといゝけるを、母なんあて成人に心付たり
ける。父はなを人にて、母なん藤原成ける。扨なんあて成人にと思ひける。此
むこがねによみておこせたりける。住所なんいるまの郡、みよしのゝ里成ける
みよしのゝたのむのかりもひたふるに君が方にそよるとなくなる
むこかねかへし
わがかたによるとなくなるみよしのゝたのむのかりをいつかわすれん
と、なん人の国にても、なをかゝる事なん、やまざりける。
ともだちども
十一むかし、男、あづまへ行けるに友達共に、道よりいひをこせける
拾遺
わするなよ程はくもゐに成ぬともそら行月のめぐりあふまで
十二昔、男、ありけり。人のむすめをぬすみて、むさしのにゐてゆく
くさむら
程に、ぬす人成ければ、国のかみにからめられにけり。女をば草村の
ひ
中にをきて、にげにけり。道くる人、此野はぬす人あなりとて、火つけんとす女わび
古今 わかくさ て
むさし野はけふはなやきそ若草のつまもこもれり我もこもれり
と、よみけるときゝて、女をばとりて、ともにゐでいにけり
もと
十三昔、むさし成男、京なる女の許に、きこゆればはづかし。聞えねばくるしと
かき うは むさしあぶみ かき のち をと
書て、上がきに武蔵鎧と書ておこせて後、音もせず成にければ、京より女
たの
むさしあぶみさすがにかけて頼むにはとはぬもつらしとふもうるさし
と、あるを見てなん。たえがたきこゝちしける
とへばいふとはねばうらむむさしあぶみかゝるをりにや人はしぬらん
埼玉県川越市三芳野神社