ひさご
花見
翁
木のもとに汁も鱠も桜かな
西日のとかによき天気なり 珎碩
旅人の 虱かき行春暮て 曲水
はきも習はぬ太刀の◎ 翁
月待て假の内裏の司召 碩
籾臼つくる杣がはやわさ 水
※◎革へんに背。ヒキハダ。
鞍置る三歳駒に秋の来て 翁
名はさま/\に降替る雨 碩
入込に諏訪の涌湯の夕ま暮 水
中にもせいに高き 山伏 翁
いふ事を唯一方え落しけり 碩
ほそき筋より戀つのりつゝ 水
物おもふ身にもの喰 へとせつかれて 翁
月見る顔の袖おもき露 碩
秋風は舩をこはかる波の音 水
鴈ゆく かたや 白子若松 翁
千部讀花の盛の一身田 碩
巡礼死ぬる 道のかけろふ 水
何よりも蝶の現そあはれなる 翁
文書などの 力さへ なき 碩
羅に日をいとはるゝ御かたち 水
熊野みたきと泣給ひけり 翁
手束弓記の関守が頑に 碩
酒ではけたるあたま成覧 水
双六の目をのそくまで暮かゝり 翁
假の持佛 に むかふ念仏 碩
中/\に土間に居れば蚤もなし 水
我名は里のなふりもの也 翁
憎れていらぬ躍の肝を煎 碩
月 夜 /\に明渡る月 水
花薄あまりまねけはうら枯て 翁
唯 四方なる 草 庵の露 碩
一貫の銭むつかしと返しけり 水
醫者のくすりは飲ぬ分別 翁
花咲けは芳野あたりを欠廻 水
虻に さゝ るゝ 春の山中 碩
翁 十二
珎碩 十二
曲水 十二
【初折】 〔表〕 このもとにしるもなますもさくらかな 芭蕉(発句 桜:春) にしびのどかによきてんきなり 珎碩(脇 春) たびびとのしらみかきゆくはるくれて 曲水(第三 春) はきもならはぬたちのひきはた 芭蕉(四句目 雑) つきまちてかりのだいりのつかさめし 珎碩(五句目 月の定座:秋月) もみうすつくるそまがはやわざ 曲水(六句目 秋) 〔裏〕 くらおけるさんさいこまにあきのきて 芭蕉(初句 秋) なはさまざまにふりかはるあめ 珎碩(二句目 雑) いりごみにすはのいでゆのゆふまぐれ 曲水(三句目 雑) なかにもせいのたかきやまぶし 芭蕉(四句目 雑) いふことをただいつぽうえおとしけり 珎碩(五句目 雑) ほそきすぢよりこひつのりつつ 曲水(六句目 雑恋) ものおもふみにものくへとせつかれて 芭蕉(七句目 雑恋) つきみるかほのそでおもきつゆ 珎碩(八句目 月の出所:秋月) あきかぜはふねをこはがるなみのおと 曲水(九句目 秋) かりゆくかたやしろこわかまつ 芭蕉(十句目 秋) せんぶよむはなのさかりのいしんでん 珎碩(十一句目 花の定座:春花) じゆんれいしぬるみちのかげろふ 曲水(十二句目 春) 【名残の折】 〔表〕 なによりもてふのうつつぞあはれなる 芭蕉(初句 春) ふみかくほどのちからさへなき 珎碩(二句目 雑恋) うすものにひをいとはるるおんかたち 曲水(三句目 夏恋) くまのみたきとなきたまひけり 芭蕉(四句目 雑) たつかゆみきのせきもりがかたくなに 珎碩(五句目 雑) さけではげたるあたまなるらん 曲水(六句目 雑) すごろくのめをのぞくまでくれかかり 芭蕉(七句目 雑) かりのぢぶつにむかふねんぶつ 珎碩(八句目 雑) なかなかにどまにすわればのみもなし 曲水(九句目 夏) わがなはさとのなぶりものなり 芭蕉(十句目 雑) にくまれていらぬをどりのきもをいり 珎碩(十一句目 秋) つきよつきよにあけわたるつき 曲水(十二句目 秋月) 〔裏〕 はなすすきあまりまねけばうらがれて 芭蕉(初句 秋) ただよほうなるそうあんのつゆ 珎碩(二句目 秋) いつかんのぜにむつかしとかへしけり 曲水(三句目 雑) いしやのくすりはのまぬふんべつ 芭蕉(四句目 雑) はなさけばよしのあたりをかけまはり 曲水(五句目 花の定座:春花) あぶにささるるはるのやまなか 珎碩(挙句 春) ※はき 佩。帯る。 ※ヒキハダ 蟇肌革の尻鞘。ヒキガエルの背のような皺をつけた革。 ※司召 朝廷での中央官の任命式。 ※白子若松 鈴鹿市内。 ※手束弓 謡曲誓願寺の「今日立ち出づる旅衣、紀の関守が手束弓」を踏まえる。