ひさご
城下
野径
鉄炮の遠音に曇る如月哉
砂の小麦の痩てはら/\ 里東
西風にますほの小貝拾はせて 泥土
なまぬる一つ餬ひかねたり 乙州
碁いさかひ二人しらける有明に 怒誰
秋の夜番の物もうの聲 珎碩
女郎花心細けにおもはれて 筆
目の中おもく見遣かちなる 野径
けふも又川原噺しをよく覚へ 里東
顔のおかしき生つき 也 泥土
馬に召神主殿をうらやみて 乙州
一 里こそり 山の下苅 怒誰
見知られて岩屋に足も留られず 泥土
それ世は泪雨としくれと 里東
雪舟に乗越の遊女の寒さうに 野径
壱歩につなく丁百の錢 乙州
月花に床屋をよつて高ふらせ 珎碩
煮しめの塩のからき早蕨 怒誰
くる春に付ても都わすられす 里東
半気違の坊主泣出す 珎碩
のみに行居酒の荒の一騒 乙州
古きはくちののこる鎌倉 野徑
時/\は百姓まても烏帽子にて 怒誰
配所を 見廻ふ 供御の蛤 泥土
たそかれは舩幽霊の泣やらん 珎碩
連も力も皆座頭なり 里東
から風の大岡寺縄手吹透し 野径
蟲のこはるに用叶へたき 乙州
糊剛き夜着にちいさぎ御座敷て 泥土
夕辺の月に菜食嗅出す 怒誰
看經の漱にまきるゝ咳気聲 里東
四十は 老のうつくしき 際 珎碩
髪らせに枕の跡を寐直して 乙州
醉を細めに あけて吹るゝ 野径
杦村の花は若葉に雨気つき 怒誰
田の 片隅に 苗のとりさし 泥土
野径 六
里東 六
泥土 六
乙州 六
怒誰 六
珎碩 五
筆 一
【初折】 〔表〕 てつぽうのとほとにくもるうづきかな 野径(発句 卯月:夏) すなのこむぎのやせてぱらぱら 里東(脇 夏) にしかぜにますほのこがひひろはせて 泥土(第三 雑) なまぬるひとつもらひかねたり 乙州(四句目 雑) ごいさかひふたりしらけるありあけに 怒誰(五句目 月の定座:秋有明) あきのやばんのものものこゑ 珎碩(六句目 秋) 〔裏〕 をみなえしこころぼそげにおもはれて 筆 (初句 秋恋) めのなかおもくみやりがちなる 野径(二句目 雑恋) けふもまたかはらばなしをよくおぼへ 里東(三句目 雑) かをのおかしきうまれつきなり 泥土(四句目 雑) うまにめすかんぬしどのをうらやみて 乙州(五句目 雑) ひとさとこぞりやまのしたがり 怒誰(六句目 夏) みしられていはやにあしもとめられず 泥土(七句目 雑) それよはなみだあめとしぐれと 里東(八句目 冬恋) そりにのるこしのゆうじよのさむさうに 野径(九句目 冬恋) いちぶにつなぐちやうひやくのぜに 乙州(十句目 雑) つきはなにしやうやをよつてたかぶらせ 珎碩(十一句目 花の定座:春花) にしめのしほのからきさわらび 怒誰(十二句目 春) 【名残の折】 〔表〕 くるはるにつけてもみやこわすられず 里東(初句 春) はんきちがひのぼうずなきだす 珎碩(二句目 雑) のみにゆくいざけのあれのひとさわぎ 乙州(三句目 雑) ふるきばくちののこるかまくら 野径(四句目 雑) ときどきはひやくしやうまでもえぼしにて 怒誰(五句目 雑) はいしよをみまふくごのはまぐり 泥土(六句目 雑) たそがれはふなゆうれいのなくやらん 珎碩(七句目 雑) つれもちからもみなざとうなり 里東(八句目 雑) からかぜのたいこじなはてふきとほし 野径(九句目 雑) むしのこはるにようかなへたき 乙州(十句目 雑) のりこはきよぎにちいさきござしきて 泥土(十一句目 冬) ゆふべのつきになめしかぎだす 怒誰(十二句目 冬) 〔裏〕 かんきんのせきにまぎるるがいきごえ 里東(初句 雑) しじふはおいのうつくしききは 珎碩(二句目 雑) かみくせにまくらのあとをねなほして 乙州(三句目 雑) ゑひをほそめにあけてふかるる 野径(四句目 雑) すぎむらのはなはわかばにあまげづき 怒誰(五句目 花の定座:夏) たのかたすみになえのとりさし 泥土(挙句 夏) ※野径 膳所の人。縁督堂と号す。 ※卯月 膳所藩では大津市別保にあった鉄砲矢場で四月から射撃訓練を行った。 ※里東 膳所の人。 ※ますほの小貝 西行の歌を引用。芭蕉も奥の細道種の浜で俳句を作っている。 山家集 内にかひあはせせんとせさせ給ひけるに、人にかはりて しほそむるますほのこがひひろふとて色の浜とはいふにやあるらん 異本山家集 題知らず しほ煙るますほのをかひひろふとていろの浜とは言ふにやあるらん ※乙州 河合乙州。近江の人。金沢在住中に芭蕉と会い、入門。 ※怒誰 膳所藩士。曲水の弟。 ※川原 芝居の事。 ※泥土 膳所の人。 ※大岡寺縄手 東海道 大岡寺畷。三重県亀山市大岡寺町の鈴鹿川の土手。 ※虫のこはる お腹が冷えて便意を催す。 ※四十は 源氏物語若紫の四十余りの尼(紫上の祖母)の印象。