ひさご
田野
正秀
疇 道 や 苗 代 時 の 角 大 師
明れは霞 む野 鼠の顔 珎碩
觜ふとのわやくに鳴し春の空 仝
かまゑおかしき門口の文字 秀
月影に利休の家を鼻に懸 仝
度/\芋をもらはるゝなり 碩
虫は皆つゝれ/\と鳴やらむ 秀
片足/\の木履たつぬる 碩
誓文を百もたてとる別路に 秀
なみたくみけり 供の 侍 碩
須广はまた物不自由なる臺所 秀
狐の恐る 弓 かりに やる 碩
月氷る師走の空の 銀河 秀
無 理に 居たる 膳も 進ます 碩
いらぬとて大脇指も打くれて 秀
獨ある子も 矮鶏 に替ける 碩
江戸酒を花咲度に恋しかり 秀
あいの 山弾 春の 入逢 仝
雲雀 啼 里は厩糞かき落し 碩
火を吹て 居る 禅門の祖父 秀
本堂はまた荒壁のはしら組 碩
羅綾の 袂しほり給 ひぬ 秀
歯を痛人の姿を絵に書て 碩
薄雪たはむすゝき痩たり 秀
藤垣の 窓に紙燭を挟をき 碩
口上果ぬいにさまの時宜 秀
たふとけに小判かそふる革袴 碩
秋入初る 肥後の 隈本 秀
幾日路も苫て月見る役者舩 碩
す布 子 ひとつ夜寒也けり 秀
沢山に兀め/\と叱られて 碩
呼 ありけとも 猫は帰らす 秀
子規御小人町の雨あかり 碩
やしほの 楓木の芽 萌立 秀
散花に雪踏挽つる音あり 碩
て
北野ゝ馬場にもゆるかけ 秀
ろふ
正秀 十九
珎碩 十七
寺町二条
井筒屋庄兵衛板
【初折】 〔表〕 あぜみちやなはしろどきのつのだいし 正秀(発句 苗代時:春) あくればかすむのねずみのかほ 珎碩(脇 春) はしぶとのわやくになきしはるのそら 珎碩(第三 春) かまゑおかしきもんぐちのもじ 正秀(四句目 雑) つきかげにりきうのいえをはなにかけ 正秀(五句目 月の定座:秋月) たびたびいもをもらはるゝなり 珎碩(六句目 秋) 〔裏〕 むしはみなつづれつづれとなくやらむ 正秀(初句 秋) かたしかたしのぼくりたづぬる 珎碩(二句目 雑) せいもんをひやくもたてたるわかれぢに 正秀(三句目 雑恋) なみだぐみけりとものさむらひ 珎碩(四句目 雑恋) すまはまだものふじゆうなるだいどころ 正秀(五句目 春) きつねのおづるゆみかりにやる 珎碩(六句目 雑) つきこほるしはすのそらのあまのがは 正秀(七句目 冬) むりにすゑたるぜんもすすまず 珎碩(八句目 雑) いらぬとておほわきざしもうちくれて 正秀(九句目 雑) ひとりあるこもちやぼにかへける 珎碩(十句目 雑) えどざけをはなさくたびにこひしがり 正秀(十一句目 花の定座:春花) あいのやまひくはるのいりあひ 正秀(十二句目 春) 【名残の折】 〔表〕 ひばりなくさとはまやごえかきちらし 珎碩(初句 春) ひをふいているぜんもんのぢぢ 正秀(二句目 雑) ほんだうはまだあらかべのはしらぐみ 珎碩(三句目 雑) らりようのたもとしぼりたまひぬ 正秀(四句目 雑恋) はをいたむひとのすがたをえにかきて 珎碩(五句目 雑恋) うすゆきたはむすすきやせたり 正秀(六句目 冬) ふぢかきのまどにしそくをはさみをき 珎碩(七句目 雑) かうじやうはてぬいにざまのじぎ 正秀(八句目 雑) たふとげにこばんかぞふるかはばかま 珎碩(九句目 雑) あきいれそむるひごのくまもと 正秀(十句目 秋) いくかぢもとまでつきみるやくしやぶね 珎碩(十一句目 月の定座:秋月) すぬのこひとつよさむなりけり 正秀(十二句目 秋) 〔裏〕 たくさんにはげめはげめとしかられて 珎碩(初句 雑) よびありけどもねこはかえらず 正秀(二句目 雑) ほととぎすおこびとまちのあめあがり 珎碩(三句目 夏) やしほのかへでこのめもえたつ 正秀(四句目 春) ちるはなにせつだひきづるおとありて 珎碩(五句目 花の定座:春散花) きたののばばにもゆるかげろふ 正秀(挙句 春) ※つづれつづれ きりぎりすの鳴き声。冬の着物を綴れと鳴く。 ※片足片足(かたしがたし) こうろぎの鳴き声。 ※物不自由 伊勢物語(古今集) 在原行平 わくらばに問ふ人あらば須磨の浦に藻塩垂れつつわぶと答えよ の俳諧化 ※あいの山 伊勢の民謡間の山節の一節「夕あしたの鐘の声、寂滅為楽と響けども、聞きて驚く人もなし」 ※羅綾 (らりょう)うすぎぬとあやおり。また、高級な美しい衣服。綾羅。 ※歯を痛 枕草子 病はより。 ※布子 木綿の綿入。 ※御小人 江戸城中で警備、御使や物品の運搬など雑務を行なった五役のひとつ。 ※やしほ 夫木抄 くれなゐのやしほの雨ぞ降りぬらし立田の山の色づくみれば ※挽づる 謡曲西行桜「嵐も雪も散り敷くや花を踏んでは同じく惜しむ」より。 ※北野ゝ馬場 謡曲右近で、北野天満宮末社の桜葉明神(女神)が登場する脇能より。
※井筒屋庄兵衛 江戸時代の芭蕉の俳句集などの版元。ひさごの版元。