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陽炎や 取つき かぬる 雪 の 上 荷兮
かけろうや土もこなさあぬあらおこし 百歳
かけろうや ほろ/\落る岸 の 砂 土芳
伊賀
いとゆふの いとあそふ也虚 木 立 氷固
野 馬に 子 共 あそはす 狐 哉 凡兆
かけろうふや 柴胡の 糸の 薄曇り 芭蕉
同
いとゆふに 皃引のはせ 作り 独活 配力
狗脊 のちりに えらるゝ わらひ哉 嵐雪
彼岸まへ さ むさも 一夜 二夜哉 路通
みのむしや 常 のなりにて 涅槃像 野水
蔵 並ふ 裏は燕 の か よひ 道 凡兆
同
立さわく 今や 紀 の 厂いせの鴈 沢雉
春雨や 屋根の 小草に 花 咲 ぬ 嵐虎
高山に臥て
春雨 や 山より 出る 雲 の 門 猿雖
不性 さや かき 起されし 春の雨 芭蕉
春 雨や 田 蓑の しまの 鯲 売 史邦
はる雨の あかるや 軒に なく 雀 羽紅
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泥 亀や 苗代 水 の 畦 つたひ 史邦
蜂とまる 木舞の 竹や 虫 の 糞 昌房
振舞や 下 座に 直る 去年の 雛 去来
伊賀
はる風に こかすな 雛の 駕籠の衆 萩子
桃 柳 くはりありくや をんなの子 羽紅
三河
もゝの花 堺 しまらぬ 垣 根 哉 島巢
里 人 の臍 落したる 田 螺かな 嵐推
蝶の 来て 一夜寝にけり 葱のきほ 半残
加州山中
紙 鳶きれて 白根か嶽 を行方 哉 桃妖
伊賀
いかのほり こゝにも すむや 潦 園風
日の影や こもく の上 の親すゝめ 珎碩
荷鞍 ふむ 春のすゝめや 縁 の先 土芳
闇の夜や 巣を まとはし て 鳴鵆 芭蕉
越より飛弾へ行とて籠のわたりのあや
うきところ/\道もなき山路にさまよひて
鷲の巣の樟 の 枯枝に日は 入りぬ 凡兆
伊賀
かすみより 見えくる雲のかしら 哉 石口
子や待ん 餘り 雲雀の 高 あかり 杉風
かげろふやとりつきかねるゆきのうへ 荷兮(陽炎:春)
かげろふやつちもこなさぬあらおこし 百歳(陽炎:春)
かげろふやほろほろおちるきしのすな 土芳(陽炎:春)
いとゆふのいとあそぶなりからきだて 氷固(糸遊:春)
かげろふにこどもあそばすきつねかな 凡兆(野馬:春)
かげろふやさいこのいとのうすぐもり 芭蕉(陽炎:春)
※柴湖 翁草。漢名、
赤熊柴湖。
いとゆふにかほひきのばせつくり于ど 配力(糸遊:春)
ぜんまいのちりにえらるるわらびかな 嵐雪(蕨:春)
ひがんまへさむさもひとよふたよかな 路通(彼岸前:春)
みのむしやつねのなりにてねはんざう 野水(涅槃会:春)
くらならぶうらはつばめのかよひみち 凡兆(燕:春)
たちさわぐいまやきのかりいせのかり 沢雉(雁立つ:春)
はるさめややねのをぐさにはなさきぬ 嵐虎(春雨:春)
はるさめややまよりいづるくものもん 猿雖(春雨:春)
ぶしやうさやかきおこされしはるのあめ 芭蕉(春雨:春)
はるさめやたみののしまのどぢやううり 史邦(春雨:春)
※田蓑 摂津の歌枕。淀川河口にある島の一つだが、諸説あって不明。
はるさめのあがるやのきになくすずめ 羽紅(春雨:春)
どうがめやなはしろみづのあぜづたひ 史邦(苗代水:春)
※泥亀 すっぽん
はちとまるこまひのたけやむしのふん 昌房(蜂巣作り:春)
※木舞 壁の下地に組む竹骨。壁土が崩れて露出した。
ふるまひやしもざになをるこぞのひな 去来(雛:春)
※振舞や 去来抄で取り上げ、芭蕉は、「五文字に心をこめて置かば信徳が人の世やなるべし。十分ならずとも振舞にて堪忍あるべし」と評している。
はるかぜにこかすなひなのかごのしう 萩子(春風:春)
※雛の駕籠の衆 三月の節句に親類に甘酒等を贈るのに、雛人形を乗り物に乗せ、使者に見立てた。
ももやなぎくばりありくやをんなのこ 羽紅(桃柳:春)
※桃柳 三月の節句の雛飾りの桃の花と柳。
もものはなさかひしまらぬかきねかな 鳥巣(桃の花:春)
※堺しまらぬ 隣家と堺に咲く桃は、どちらからも眺め、散って行くという意味。
さとびとのへそおとしたるたにしかな 嵐推(田螺:春)
てふのきてひとよねにけりねぎのぎぼ 半残(蝶:春)
※一夜寝にけり 万葉集 山部赤人(古今集仮名序)春の野にすみれつみにとこし我ぞ野をなつかしみひと夜寝にける
※葱のぎぼ 葱の擬宝。葱坊主。
いかきれてしらねがたけをゆくゑかな 桃妖(紙鳶:春)
※紙鳶 いか。凧。
※白根が嶽 白山。知らねの掛詞。
いかのぼりここにもすむやにはたづみ 園風(紙鳶幟:春)
※潦 にわたずみ。水溜り。
ひのかげやごもくのうえのおやすずめ 珎碩(親雀:春)
※
ごもく 芥、水屑
にぐらふむはるのすずめやえんのさき 土芳(春雀:春)
やみのよやすをまどはしてなくちどり 芭蕉(鳥の巣:春)
※まどはして 冬されば佐保の河原の川霧に友まどはせる千鳥なくなり(拾遺集 冬歌 紀友則)を踏まえる。
※鳥の巣 千鳥は冬、水鳥の巣は夏とするが、鳥の巣として春部に収載。他の所収の陸奥鵆は冬、泊船集は夏と解釈が分かれる。
わしのすのくすのかれえにひはいりぬ 凡兆(鳥の巣:春)
かすみよりみえくるくものかしらかな 石口(霞:春)
こやまたんあまりひばりのたかあがり 杉風(雲雀:春)