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葵
こえ給ふ。御いらへとき/“\きこえ給ふも、なをいとよはげ
源心
なり。されどむげになき人と思ひきこえし御ありさ
まを、おぼしいつれば、ゆめの心ちして、ゆゝしかりし
ほとのことゞもなどきこえ給つゐでにも、かのむげ
にいきもたえたるやうにおはせしが、ひきかへし、つぶ/\
源詞
との給しことゞもおはしいづるに心うければ、いざや
きこえまほしきこといとおほかれど、またいとたゆ
げにおぼしためればこそとて、御ゆまいれなどさ
へあつかひきこえ給を、いつならひ給けんと人゛々あ
葵
はれがりきこゆ。いとおかしげなる人の、いたうよはり
そこなはれて、あるかなきかの氣しきにてふし給へる
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さま、いとらうたけにくるしけなり。御ぐしのみたれたる
すぢもなくはら/\とかゝれるまくらのほど、ありがた
源心
きまでみゆれば、としごろなにことをあかぬことあ
りて思ひつらんと、あやしきまでうちまもられ給。
源詞
ゐんなどにまいりていととくまかでなん。かやうに
大宮
ておぼつかならず、み奉らばうれしかるべきを、宮のつ
とおはするに心なくやとつゝみてすぐしつるも
くるしきをなをやう/\心づよくおぼしなして、れい
のおまし所゛にこそ。あまりわかくもてなし給へば、かたへ
はかくてものし給ぞなどきこえをき給て、いとき
葵
よけにうちさうぞきて出給を、つねよりはめとゞ
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地
めてみいだしてふし給へり。秋のつかさめしあるべきさ
だめにて、大とのもまいり給へば君だちもいたはり
のぞみ給事どもありて、とのの御あたりはなれ給
はねば、みなひきつゞき出給ぬ。とのゝうち人ずく
葵
なにしめやかなるほどに、にはかにれいの御むねを
せきあげて、いといたうまどひ給。うちに御せうそこ
八月十四日ノ夜也
きこえ給ほどもなくたえいり給ぬ。あしをそらにて
たれも/\まかで給ぬれば、ちもくの夜なりけれど、
かくわりなき御さはりなれば、みなことやぶれたるや
よなか
うなり。のゝしりさはぐほど夜中ばかりなれば、山
のざすなにくれのそうたちもえさうじあへ給はず。
こえ給ふ。御いらへ時々聞こえ給ふも、猶いと弱げなり。されど無下に亡
き人と思ひ聞こえし御有樣を、おぼし出づれば、夢の心地して、ゆゆしか
りし程の事共など聞こえ給ふ次ゐでにも、かの無下に息も絶えたるやうに
おはせしが、引き返し、つぶつぶと宣ひし事ども、おはし出づるに心憂け
れば、「いざや。聞こえまほしき事いと多かれど、またいとたゆげにおぼ
しためればこそ」とて、「御湯参れ」などさへあつかひ聞こえ給ふを、い
つ習ひ給けんと、人々あはれがり聞こゆ。
いとおかしげなる人の、いたう弱りそこなはれて、有るか無きかの気色に
て臥し給へる樣、いとらうたけに苦し気なり。御髪(ぐし)の乱れたる筋
もなく、はらはらと懸かれる枕の程、有り難きまで見ゆれば、年比、何事
を飽かぬ事有りて思ひつらんと、奇きまで打ちまもられ給ふ。「院などに
参りて、いととくまかでなん。かやうにて、おぼつかならず、見奉らば嬉
しかるべきを、宮のつとおはするに心なくやと、つつみて過ぐしつるも苦
しきを、猶やうやう心強くおぼしなして、例の御座(おまし)所にこそ。
余り若くもてなし給へば、方へは、かくてものし給ぞ」など聞こえをき給
ひて、いと清気に打ち装束(さうそ)着て出で給ふを、常よりは目留めて
見出だして臥し給へり。秋の司召しあるべき定めにて、大殿も参り給へば、
君達もいたはり望み給ふ事共有りて、殿の御あたり離れ給はねば、皆引き
続き出で給ひぬ。
殿の内、人少なにしめやかなる程に、俄かに例の御胸を咳上げて、いと痛
う惑ひ給ふ。内に御消息聞こえ給ふ程もなく、絶え入り給ひぬ。足を空に
て誰もたれもまかで給ひぬれば、除目の夜なりけれど、かくわりなき御障
りなれば、皆事破れたるやうなり。罵り騒ぐ程、夜中ばかりなれば、山の
座主、何くれの僧達も、え請じあへ給はず。