しらす。このかせひつしのかたへ
うつりゆきておほくの人の
なけきをなせり。つしかせはつ
ねにふくものなれとかゝることや
ある。たゝことにあらす。さるへき
ものゝさとしかなとそうたかひ侍
し。又治承四年みな月のころに
はかにみやこうつり侍き。いと
おもひのほかなりしことなり。
(数も)
知らず。
この風、未の方へ移り行きて多くの人の嘆きを為せり。
辻風は、常に吹くものなれど、斯かる事やある。
只事に非ず。然るべき者の諭しかなとぞ疑ひ侍し。
又治承四年水無月の比、俄に都遷り侍き。
いと思ひの外為りし事也。
(参考)大福光寺本
シラス
コノ風ヒツシノ方ニウツリユキテヲホクノ人ノナケキナセリ
ツシ風ハツネニフク物ナレトカゝル事ヤアル
タタ事ニアラス
サルヘキモノゝサトシカナトソウタカヒハヘリシ
又治承四年ミナ月ノ比ニハカニミヤコウツリ侍キ
イトヲモヒノ外也シ事ナリ