たわむれニおくるてうしくんのひしんに としんけん 戲贈趙使君美人 杜審言こうふんせいがゑいすそうんにとうくはばしやうせきりうくん紅粉青娥映楚雲桃花馬上石橊裙らふひとりむかつてとうほうにさるまんにまなんてたけをならんしくんと羅敷獨向東方去謾學他家作使君
たわむれとはおとけふといふこゝろ。ともたちのてうしくんがからいのひしんへおくるなり。てんきのよいしふんにりつはななりをしてけわいたてゝでた。そうんといふはふさんのしんしよのこともとりあわやていふそうんにもゑいするほとりつはな事じゃ。そのびしんがとうくわばといふけいろのむまにのりしやくろの花のいろのしたはかまをきてゆく。いつもしくんとつれたちゆくかけふはひとりゆかるゝ。めつたにみつからでるいたけのてうしくんとなりておとものふそふらふの事はてうおうのこじ也。
戯れに趙使君美人に贈る 杜審言紅粉青娥(せいが)、楚雲に映す
桃花の馬上、石橊(せきりゅう)の裙(くん)
羅敷(らふ)独り東方に向かって去る
謾(みだ)りに他家を学んで使君と作(な)らん
意訳紅白粉の化粧した若い女性の姿が雲に映えている。桃の花の色の馬に乗り、その裳裾はザクロの花の色。この羅敷さんは、夫を追い掛けて独り東方に行くのだろうか?さて誤魔化して、あの使君の真似をしてこの美人を誘惑してみようかな。
※戯贈 陌上桑と言う古い楽府を踏まえて、他人の愛人にからかって贈っている。
※趙使君 不詳。使君は、州の地方長官の刺史を言う。
※美人 愛妾。
※紅粉 紅と白粉。
※青娥 若い美人。
※楚雲 戦国期の宋玉の〈高唐の賦〉〈神女の賦〉に登場する神女でもともと天帝の女であったが,未婚のまま死んで巫山の南に葬られ,巫山の神となった。楚の懐王が夢にこの神女と通じ,襄王も彼女と夢の中で会った。神女が,自分は旦に朝雲となり暮に行雨となると告げたことから,男女の交りを後世,雲雨という。その巫山の神女の故事を踏まえる。
※桃花馬上石橊裙 白と赤味を帯びた馬に乗って石榴色のひだの付いた巻きスカートを着て。
※羅敷 陌上桑に出て来る美人で、桑の葉を摘んでいると、使君が見初めて、屋敷に誘うと、「羅敷にも自ら夫有りと、東方の千余騎、夫壻上頭に居る」と自慢する。趙使君美人を見立てた。
※
陌上桑 無名氏<五言古詩>日出東南隅 日東南の隅に出でて照我秦氏樓 我が秦氏の楼を照らす秦氏有好女 秦氏に好女有り自名爲羅敷 自ら名づけて羅敷と為す羅敷善蠶桑 羅敷蚕桑を善くし采桑城南隅 桑を城南の隈に采る素絲爲籠糸 素糸を籠糸と為し桂枝爲籠鉤 桂糸を籠鉤と為す頭上倭堕髻 頭上には倭堕の髻耳中明月珠 耳中には明月の珠緗綺爲下桾 緗綺を下桾と為す紫綺爲上襦 紫綺を上襦と為す行者見羅敷 行く者は羅敷を見て下擔拊髭鬚 担を下して髭髯をなで少年見羅敷 少年は羅敷を見て脱帽著哨頭 帽を脱して哨頭を著わす
耕者忘其犂 耕す者は其の犂を忘れ
鋤者忘其鋤 鋤く者は其の鋤を忘る歸來相怒怨 帰り来りて相い怒怨するは
但坐觀羅敷 但だ羅敷を観るに座る
使君従南來 使者南より来りて五馬立踟蹰 五馬立ちどころに踟蹰す使者遣吏往 使君吏をして往かしめ問是誰家姝 問う是れ誰が家の姝ぞと秦氏有好女 秦氏に好女有り自名爲羅敷 自ら名づけて羅敷と為すと羅敷年幾何 羅敷の年は幾何ぞと二十尚不足 二十には尚お足らざれども十五頗有餘 十五には頗る余り有りと使君問羅敷 使君羅敷に問う寧可共載不 寧ろ共に載すべきや不やと羅敷前致詞 羅敷前みて詞を致す使君一何愚 使君一に何ぞ愚なる使君自有婦 使君には自ら婦有り羅敷自有夫 羅敷にも自ら夫有りと東方千餘騎 東方の千余騎夫壻居上頭 夫壻は上頭に居る何用識夫壻 何を用て夫壻を識るや白馬従驪駒 白馬驪駒を従え靑絲繋馬尾 青糸を馬の尾に繋け黄金絡馬頭 黄金を馬の頭に絡う腰中鹿盧劒 腰中の鹿盧の剣は可値千萬餘 千万余に値すべし十五府小史 十五にして府の小史二十朝大夫 二十にして朝の大夫三十侍中郎 三十にして侍中郎四十専城居 四十にして城を専らにして居る爲人潔白晳 人と為りは潔白鬈鬈頗有鬚 鬈鬈として頗る鬚有り盁盁公府歩 盁盁として交府に歩み冉冉府中趨 冉冉として府中に趨る座中數千人 座中の数千人皆言夫壻殊 皆夫壻は殊れたりと言うと
唐詩選畫本 七言絶句 巻一