ところかはらちかけれはみつのなん
もふかく、しらなみのおそれもさ
はかし。すへてあらぬよをねんし
くらしつゝ心をなやませること
三十よねんなり。そのあいた
おり/\のたかひめにをのつから
みしかきうんをさとりぬ。すな
はちいそちのはるをむかへて家
をいてよをうそむけり。もとより
所、河原近ければ水難も深く、白波の恐れも騒がし。
すべてあられぬ世を念じ暮らしつつ心を悩ませる事、三十余年也。
その間、折々のたがひめに、おのづからみじかき運を悟りぬ。
すなはち、五十の春を迎へて、家を出て世を背けり。
元より
参考 大福光寺本
所カハラチカケレハ水難モフカク白波ノヲソレモサハカシ。
スヘテアラレヌヨヲネムシスクシツゝ心ヲナヤマセル事三十余年也。
其間ヲリヲリノタカヒメヲノツカラミシカキ運ヲサトリヌス。
ナハチイソチノ春ヲムカヘテ家ヲ出テ世ヲソムケリ。
モトヨリ