はかりなき
葵 ちひろの
第 そこの
おひ みる
九 ゆく 見 ふさの
あふひ すへは む
われのみぞ
はなくさむべかめれと思ふも、いとはかなきほどの御
かたみにこそとて、をの/\あからさまにまかでゝ
まいらんといふもあれば、かたみにわかれをしむ
ほど、をのがじゝあはれなることゞもおほかり。
源 院詞
院へまいり給へれば、いといたくおもやせにけり。さ
うしにて日をふるけにやと、こゝろぐるしげに
おぼしめして、おまへにてものなどまいらせ給て、
とやかくやとおぼしあつかひきこえさせ給へるさ
藤つぼノ事
ま、あはれにかたじけなし。ちうぐうの御かたにまいり
給へれは、人々゛めづらしがりみ奉る。みやうぶの君し
源詞
ておもひつきせぬことゞもを、ほどふるにつけて
もいかにと御せうそこきこえ給へり。つねなき世はお
ほかたにも思ふ給へしりにしを、めにちかくみ侍つ
るに、いとはしきことおほく、おもふ給へみだれしも
たび/\の御せいうそこになぐさめ侍てなん。けふ
地
までもとて、さらぬおりだにある御けしき、とり
そへて、いと心ぐるしげなり。むもんのうへの御ぞ
ににび色の御したがさね、えいまき給へるやつ
れすがた、はなやかなる御よそひよりもなまめか
源詞
しさまさり給へり。春宮ゞにもひさしうまいらぬお
ほつかなさなどきこえ給て、夜ふけてぞまかて給。に
でうのゐんには、かた/"\はらひみがきて、おとこをんな待
きこえたり。上らうどもみなまうのぼりて、われも/\
源心
とさうぞきけさうじたるをみるにつけても、かの
ゐなみくむじたりつるけしきどもぞ。あはれに思ひ
出られ給。御そうぞく奉りかへて、にしのたいにわた
り給へり。ころもがへの御しつらひくもりなくあざや
かに見えて、よきわか人わらはべ、なりすがためやすく
とゝのへて、せうなごんがもてなし心もとなきところ
紫
なく、にくしとみ給ふ。ひめ君゛いとうつくしうひき
つくろひておはす。ひさしかりつるほどに、いとこよな
うこそをとなび給にけれとて、ちいさき御きちやう
紫
ひきあげて見奉り給へば、うちそばみてはぢら
は慰むべかめれと思ふも、いと儚き程の御形見にこそ」とて、各々「あから樣
にまかでて、参らん」と言ふもあれば、形見に別れ惜しむ程、己がじし哀れな
る事共も多かり。
院へ参り給へれば、「いといたく面痩せにけり。精進(さうし)にて日を経る
けにや」と、心苦しげにおぼし召して、御前にて物など參らせ給ひて、とやか
くやとおぼし扱ひ聞こえさせ給へる樣、哀れにかたじけ無し。中宮の御方に參
り給へれば、人々、珍しがり見奉る。命婦の君して、「思ひ尽きせぬ事共を、
程経るに付けても、如何に」と御消息聞こえ給へり。「常無き世は、大方にも
思ふ給へ知りにしを、目に近く見侍りつるに、厭はしき事多く、思ふ給へ乱れ
しも、度々の御消息に慰め侍りてなん。今日までも」とて、さらぬ折りだにあ
る御気色、取り添へて、いと心苦しげなり。無紋の上の御衣に鈍色の御下重ね、
嬰巻き給へる窶れ姿、華やかなる御装ひよりも艶めかし樣さり給へり。春宮に
も久しう參らぬおほつか無さなど聞こえ給て、夜更けてぞまかで給ふ。
二条の院には、方々払ひ磨きて、男女待ち聞こえたり。上臈共、皆まう昇りて、
我も我もと装束き、化粧じたるを見るに付けても、かのゐ並み屈むじたりつる
気色共ぞ、哀れに思ひ出でられ給ふ。御装束奉り替へて、西の対に渡り給へり。
衣替への御しつらひ曇り無く鮮やかに見えて、よき若人童女、形(なり)、姿
めやすく整へて、少納言がもてなし、心もと無き所無く、憎しと見給ふ。
姫君、いと美しう引き繕ひておはす。「久しかりつる程に、いとこよなうこそ
大人び給ひにけれ」とて、小さき御几帳引き上げて見奉り給へば、うちそばみ
て恥ら