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方丈記と平家物語について4 完成版

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(2) 治承の辻風

 治承四年(1180年)四月二十九日に中御門から六条大路までの約2kmに渡り竜巻が起こり、多くの屋敷が破壊された。
 治承の辻風の方丈記と平家物語異本の主な差違は表の2の通り。

 辻風の部分に関しては、多くの異本において、参考としたと考えられる部分はとても少ない。ところが、合戦状本に至っては、ほぼ全部が方丈記の大福光寺本、前田家本を平家物語に真字で写し、一致すると言っても過言では無い。
 「四五町がほどに置き」は、前田家本はこれが無く、他の本を参照した事が考えられる。
 「冬の木の葉」については、合戦状本のみ「秋の木の葉」としており、他の異本の語句の一致からは、変化と見て良い。
 大福光寺本の「さながらひらにたふれたるもあり」や「煙の如く吹たれば」、流布本の「塵を煙のごとく吹き立てたれば」を「塵如ク払フニ是ノ吹立ケレバ」など多少の差違は、合戦状本の写本に因る違いと言える。読み下しの訓は多少違うが、これは後から読み下しを書いた者の読み方の違いとも言える。
 辻風が起こった年は他本と違い、その前に「四月一日親院自厳島ヘ」とあり、高倉院の厳島神社御行の後に記載されているので、発生した年は正しいが、日付のみ「同じく十日余り」とあり、四月に読めるが、「同く」の前に空白があり、ママと注があるので、他異本の通り五月では無いかと書写者は疑ったと考えられる。どちらにしても方丈記と異なる点である。
 大福光寺本の「三四町ヲフキマクルアヒタニ、コモレル家トモ」と流布本にある「三四町をかけて吹きまくるに、その中にこもれる家」とあり、合戦状本の「懸三四町吹間、籠ル其中屋共」と「懸けて」と「その中」が流布本と同じで、「間」は大福光寺本に同じであり、合戦状本は、大福光寺本と流布本の両方を参考としたと考えて良い。若しくは、合戦状本は、大福光寺本と流布本の書写する前のオリジナルの方丈記を写し、両異本とも誤写した部分が差違となっているかも知れない。前田家本の「三四丁をかけてふきあくるあひだにその中にこもれる家」とあり、「ふきまくる」と「ふきあくる」の違いは、前田家本の系統を参考としたと考えるべきであろう。書写年代は、大福光寺本、前田家本より遅いと考えられている諸異本の「保冣本(野中春水蔵)」、「氏家本(天理図書館蔵)」、「嵯峨本(伊藤健氏蔵)」、「兼良本(戸川浜男氏蔵)」、{近衛本(陽明文庫蔵」)は、「三四町をかけて吹きまくる間に其の中に」と合戦状本と同じである。

 簗瀬博士は、全注釈の補説の中で、「長明の文章には、くくり書きが存在する事」として「間に」を正統とし、「『間にその中に』では、いかにも稚拙」と「以上の推定が許されるとすると、この辻風の条は、後人の手が加わった伝本が多い」としている。しかし、稚拙の根拠だが、方丈記の養和の飢餓でも「ひたすらに家ごとにこひありく」の用例もある事から当たらない。
 従って前田家本系の方がよりオリジナルに近い可能性があると考えられる。
 合戦状本以外の異本については、日付に関して、方丈記の治承四年の四月(流布本は四月二十九日)が、平家物語では、平重盛の死と関連づけて治承三年の事とし、高野本、城方本、中院本、百二十句本、九年本、下村本は五月十二日。盛衰記、延慶本、長門本は、六月十四日としている。屋代本、平松家本は治承四年五月十五日となっている。

 家屋が吹き飛ばされ残るものは、「桁柱長押」の高野本、九年本、下村本、熱田本、城方本、中院本、百二十句本、屋代本、平松家本と「桁梁垂木小舞」の盛衰記、「桁梁長押棟」の延慶本、「桁梁長押柱」の長門本、方丈記完全一致の合戦状本に分かれる。
 吹き飛ばされる家屋の距離は、ほとんどが、「四五町十町」としている。城方本のみ「三町五町」と平家物語の安元の大火と同じで、その部分をそのまま引用したものと思える。
 吹き飛ばされる物とその樣子の「檜皮葺板の類、冬の木の葉の風に乱るゝがごとし」は、高野本、城方本、百二十句本、九年本、下村本の読み本系において一致している。
 「地獄の業風(ごうふう)」については、高野本、百二十句本、九年本、下村本、平松家本が一致しているが、屋代本、合戦状本は、「業ノ風(かぜ)」と表記が変わっている。
 竜巻が通過する方角については、流布本と同じ「未申」は高野本、九年本、下村本、城方本、盛衰記、延慶本、長門本であるが、大福光寺本、前田家本と同じ「未」はやはり合戦状本となっている。平松家本は、「艮」と他異本とは全く違う記載となっている。
 平家物語の治承の辻風を分類すると、①高野本、九年本、下村本、熱田本、(平松家本)、(盛衰記)、(長門本)、①’城方本、中院本、百二十句本、屋代本、平松家本、②盛衰記、延慶本、長門本、そしてほぼ方丈記と一致する③合戦状本に分かれる。
 ①と①’は、ほとんど同じではあるが、微妙な一致率の差に因る。②についても、①及び①’との差は特徴的な語句の差があるが、三異本同士の一致率は高い。

 


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