小袖曾我 四番物 作者不明
工藤祐経を親の仇とする曾我十郎、五郎兄弟は、富士の巻狩の機を狙い、出発前に母に会うが、五郎を勘当していた母は会わず、十郎が五郎を躊躇する五郎を連れ、弟の不孝を説き哀訴して勘当も解けて富士の狩場に向かう。
母 荒珍しや十郎殿、いづくへの次でぞや、母が爲には態とはよも
シテ さむ候久しく參らず候程に向顏の爲、又は富士野の御狩と申候程に。
母 さればこそ思ひし事よ君がため、御狩に出るついでぞや。
シテ いつしか親子の御戯れ、めづらし顏に羨しやと
トキ 思ひながらも時宗は、不孝の身なれば物の隙より。
同 高間の山の嶺の雲、よそにのみ見てややみなん。
同 同子に、同じ母その傅人乳母、同じ母その森めのと、隔なくこそ育てしに、さも引替て祐成には、色々のお饗、御祝事のお盃、たとえば時宗は、後に生まれしばかりなり、まさしく同じ子の身にて、御覺え蘆垣の、隔あるこそ悲しけれ。
高間の山の嶺の雲、よそにのみみてややみなん
巻第十一 戀歌一 990 よみ人知らず
題しらず
よそにのみ見てややみなむ葛城や高間の山のみねのしら雲