前田家本方丈記 日野の庵13 自づから都の便りを聞けば
ゐにこけむせり。をのつから 事のたよりにみやこをき けはこのやまにこもりゐて後 やむ事なき人のかくれたま へるあまたきこゆ。ましてその かすならぬたくひつくしてこ れをしるすへからす。たひ/\の 炎上にほろひたる家またいく そはくそ。たゝかりのいほりの (土)居に苔むせり。...
View Article前田家本方丈記 日野の庵14 庵のみ長閑けくして
みのとけくしておそれなし。ほと しはしといへともよるふすゆか あり。ひるゐるさあり。身一を やとすにふそくなし。かうなは ちいさきかいをこのむ。これ身 をしれるによりてなり。みさ こはあらいそにゐる。すなはち 人をおそるゝかゆへなり。われ またかくのことし。みをしりよ (庵の)み、のどけくして恐れなし。 ほど狭しといへども、夜臥す床あり。 昼ゐる座あり。 身一をやどすに不足なし。...
View Article前田家本方丈記 日野の庵15 世を知れらば願はず、走らず、ただ静なるを望みとし
をしれらはねかはすはしらすた たしつかなるをのそみとし うれへなきをたのしみとす。 すへて世の人のすみかをつくる ならひかならすしも身のために せす。あるひは妻子眷属のため につくりあるひは親昵朋友の ためにつくる。あるひは主君 師匠財貨車馬のためにさへ (世)を知れらば、願はず、はしらず、ただ静かなるを望みとし、憂へ無きを楽しみとす。...
View Article前田家本方丈記 日野の庵16 我今身のために結べり
これをつくる。われいまみの ためにむすへり。人のために つくらさる。ゆへいかにとなれは いまのよのならひこの身のあり さまともなふへきやつこもな し。たとひ広くつくれりとも たれをかやとしたれをか すへん。それ人のともたるものは とめるをたうとみねんころ これを作る。 我、今身の為にむすべり。 人の為につくらざる。 故いかにとなれば、今の世のならひ、この身のありさま、伴ふべき奴もなし。...
View Article前田家本方丈記 富める者を尊び1 懇ろなるを先とす
るをさきとす。かならすしも なさけあるとすなをなるとを はあいせす。たゝ紫竹花月をと もとするにはしかす。人のやつ こたるは賞罰はなはたしく 恩顧あつきをさきとす。さら にはくゝみあはれふとやすく しつかなるをはねかはす。た たわか身を奴婢とするにはしか (懇ろな)るを先とす。 必ずしも情けあると素直なるとをば愛せず。 ただ紫竹花月を友とせんにはしかず。...
View Article前田家本方丈記 富めるを尊び2 如何我が身を奴婢とする
す。いかゝわか身を奴婢とするとなら は若なすへき事あれはすなは ちおのか身をつかふ。たゆからすし もあらねとひとをしたかへひとを かへりみるよりはやすし。若ある くことあれはみつからあゆむ。 くるしといへともむまくらうし くるまとこゝろをなやますに はしかす。いま一身をわかちてふた しかず。 いかゞ我が身を奴婢とするとならば、もしなすべき事あれば、すなはち己が身を使ふ。...
View Article前田家本方丈記 富めるを尊び3 今、一身を分かちて
つの用をなす。てのやつこあし のゝりものよくわか身にかなへり。 こころ身のくるしさをしれゝ はくるしき時はやすめつまめ なれはつかふ。つかふといへとも たひ/\すくさす。ものうしとて もこゝろをうこかすことなし。 いかにいはんやつねにあるき つねにはたらくはこれ養姓 (二)の用をなす。 手の奴、足の乗物、よくわが身にかなへり。 心身の苦しさを知れゝば、苦しき時は休めつ、まめなれは使ふ。...
View Article前田家本方丈記 富めるを尊み4 何ぞ徒に易くおらん
なるへし。なんそいたつらに やすくおらん。ひとをくるしめ人 をなやますははた罪業なり。い かゝ他のちからをかるへき。衣食の たくひまたおなしふちの衣 あさのふすまうるにしたかひ てはたへをかくしてのへのおはき みねのこのみわつかにいのちを つくはかりなり。ひとにましらは (養姓)なるべし。 なんぞいたづらに易くおらん。 人を苦しめ、人を悩ますは、はた罪業なり。 いかゞ他の力を借るべき。...
View Article前田家本方丈記 富めるを尊み5 姿を恥づる悔いもなし
されはすかたをはつるくひもな しかてともしけれはおろそかな れともほゝをあまくす。すへて かやうのたのしみ人にたいし ていふにはあらす。わか身ひとつに とりてむかしといまをなそ らふるはかりなり。それ三界は た々こゝろひとつなり。こゝろもし やすからすは象馬七珍もよしなく (交は)らざれば、姿を恥づる悔ひもなし。 糧乏しければ、おろそかなれども哺々をあまくす。...
View Article前田家本方丈記 其れ三界は只心一つ 宮殿楼閣の望みなし
宮殿楼閣ものそみなし。いまさ ひしきすまひひとまのいほり みつからこれをあひす。をのつから みやこにいてゝ乞匂となれるこ とをはつといへともかへりてこゝ におるとき他の俗塵にはするこ とをあはれふ。もし人このいへる ことをうたかはゞいをとゝりと のありさまをみよ。いをは水に 宮殿楼閣も望みなし。 今寂しき住まひ、一間の庵、自らこれを愛す。...
View Article前田家本方丈記 抑も一期の月傾きて1 仏の人を教へ給ふ趣は
ほとけの人をおしへ給おもむ きはことにふれて執心なかれと なり。いま草庵を愛するもと かとす。閑寂に着するもさはり なるへし。いかゞようなきたのし みをのへてむなしくあたと きをすくさむ。しつかなるあか つきこのことはりをおもひつゞ けてこゝろにとひていはく。よを 仏の教へ給ふ趣は、事にふれて執心なかれとなり。 今、草庵を愛するも、咎とす。 閑寂に着するも、障りなるべし。...
View Article前田家本方丈記 抑も一期の月傾きて2 世を逃れて山林に交はる
のかれて山林にましはるは心を しつめみちをおこなはんかた めなり。しかあるをなんそす かたはひしりにてこゝろはにこり にしめり。すみかはすなはち浄 名居士のあとをけかせりといへと もたもつところはわつかに周 利槃特が行にたにおよはす。 もし是貧賤の報のみづからな 逃れて山林に交はるは、心を鎮め、道を行はんが為なり。 しかあるを、何ぞ姿は聖人にて、心は濁りに染めり。...
View Article謡曲 高砂
高砂 脇能物 世阿弥 作 古今集仮名序にある「高砂住の江の松も相生のやうに覚え」を主題にして、阿蘇の神主が京へ上る途中、播磨の高砂の浦に立ち寄り老夫婦に出会い、この松が相生の松であることを告げ、高砂と住吉の松の精と告げる。住吉に舟で住吉に来ると住吉の神が天下泰平、寿福延年を祝福して舞う。 シテ...
View Article謡曲 夕顔
夕顔 三番目物 作者不明 源氏物語の夕顔の六条御息所にとり殺されたことをモチーフに、豊後の僧が京の五条のあばらやから聞こえる夕顔の歌を聞き、弔いの為に法華経を読誦すると夕顔の霊が現れ、弔いを願い、回向によって迷いの晴れたことを喜び舞を舞い消えうせる。 女 山の端の、心も知らで行く月は、上の空にて、影や絶えなん。 女...
View Article謡曲 鵺
鵺 五番目物 世阿弥 熊野詣の僧が都へ上る時、蘆屋で宿を頼むと断られ、洲崎の御堂ならと教えられ、泊まると光る空舟が現れ、聞くと源三位頼政に射殺された鵺の亡霊と答えた。次の日読経をすると夜に又鵺が現れ、射殺された当時を語る。 ワキ...
View Article謡曲 道成寺
道成寺 四番五番物 作者不明 紀州の道成寺で鐘供養の日、白拍子が寺内に入り夜に「この鐘怨めしや」と鐘を落として消える。住職は、怨霊の仕業と昔話を語る。山伏に惚れた娘が、毒蛇となって鐘に取り付き、鐘は溶けて山伏も消える。 女 花の外には松ばかり、花の外には松ばかり、暮初めて鐘や響くらむ。女...
View Article謡曲 小袖曾我
小袖曾我 四番物 作者不明 工藤祐経を親の仇とする曾我十郎、五郎兄弟は、富士の巻狩の機を狙い、出発前に母に会うが、五郎を勘当していた母は会わず、十郎が五郎を躊躇する五郎を連れ、弟の不孝を説き哀訴して勘当も解けて富士の狩場に向かう。 母 荒珍しや十郎殿、いづくへの次でぞや、母が爲には態とはよもシテ...
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