(ウェッブリブログ 2012年10月07日)
編集中
突然のお願いいたしまして、誠に申し訳御座いません。お忙しくないときに御教示頂ければ幸いです。
以下の通り、平家物語において、作者が藤原行長であれば、当然漢詩でなければならず、中世には漢詩風や疑似漢文などが散見されるようになりますので、それにより作者を特定できないかということです。
また、禅宗の輸入により、白居易などの唐風から宋風、元風へ移行しているのかもしれません。
行長は、白居易の新楽府の七徳のうち二つを忘れて、五徳の冠者とあだ名されたことを恥じて、出家したと徒然草に記載があり、ご存じな樣に元久詩歌合に院の急遽参加により、後から追加されたほどの詩人です。
3 漢詩及び漢詩的表現
平家物語には、随所に漢詩又は漢詩風な表現、そして和漢朗詠集や文選、白氏文集を引用している。
漢詩の特徴としては、対句であり、随所に見られる。しかし、漢詩の特徴としては、先ず平仄が一致していなければならない。そして韻を踏んでいるかが重要となる。
そこで、二つの事例から、その漢詩的表現が漢詩としてなりうるのかを検証する。
(1) 平家一門都落ち
平家一門の都落ちの際、源義仲に利用されることを懸念してか、自分の家々を燃やした場面。語り本系と読み本系には、大きな差がある。
① 長門本
或陛下誕生之霊跡 或いは陛下誕生の霊跡 【或は詩外?】
龍楼幼稚青宮 龍楼幼稚の青宮 【之の欠落か?】
博陸補佐之居所 博陸補佐の居所
或相府丞相舊室 或相府丞相の旧室 【或は詩外】【之の欠落か?】
三台槐門之故亭 三台槐門の故亭
九棘鴛鸞之栖也 九棘鴛鸞の栖也
門前繁昌、堂上栄花砌、如夢如幻。 門前の繁昌、堂上栄花の砌、夢の如く幻の如し。
(源順 詩挿入)
漢家三十六宮之 漢家三十六宮の
楚の項羽の為に亡されけんも、是にはすぎじとぞ見えし。→楚項羽亡是不過
無常春花随風散 無常は春の花、風に随って散り
○○○○○○●→翰
有涯暮月伴雲隠 有涯は暮べ月、雲に伴ひて隠る。
●○●●●○●→吻
誰栄花如春花不驚 誰か栄花、春の花の如とくを驚かざる
可憶命葉与朝露共易零 憶ふべし命葉の朝露と共に零ち易すきを
蜉蝣戯風邈逝之樂幾許 蜉蝣風に戯るる、邈逝の楽しみ幾許ぞ
螻蛄諍露合敬之声伝韻 螻蛄、露に諍ふ合敬の声韻を伝ふ
崑閣十二楼上仙之棲終空 崑閣の十二楼の上、仙の棲終に空しく
雉蝶一万里中洛之城不固 雉蝶一万里の中、洛の城固ならず
多年経営一時魔滅 多年の経営、一時に魔滅す。
校正 階下→陛下 怨→鴛 懇→邈
② 百二十句本
百二十句本は、水原一氏(新潮集成)によると文選 西都賦 班固の
文選賦篇京都 西都賦
蓋し聞く皇漢の始めて経営するや…
左拠函谷二崤之阻、表以太華終南之山
右界褒斜隴首之険、帯以洪河涇渭之川
金城の万雉なるを建て…
後宮には、則ち掖庭淑房有り…
茲に因って以って戎を威し狄に夸り…
是に於て後宮さん輅に乗り竜舟に上り鳳蓋を張り、華旗を建て
などの文字を借りているとのこと。
読み下し風になっているので、これを漢詩風に直すと、
(編集中)
(2) 灌頂巻
灌頂の巻には、漢詩風の部分があり、それをみると、
①高野本
軒にならべるうへ木をば、七重宝樹とかたどれり。
岩間につもる水をば、八功徳水とおぼしめす。
無常は春の花、風に随て散やすく、
有涯は秋の月、雲に伴て隠れやすし。
承陽殿に花を翫し朝には、風来ッてにほひを散し、
長秋宮に月を詠ぜしゆふべには、雲おほッて光をかくす。
昔は玉楼金殿に錦の褥をしき、
たへなりし御すまゐなりしかども、
今は柴引むすぶ草の庵、
よそのたもともしほれけり。
【玉桜→玉楼】
②熱田本
雙軒樹模七重寶樹
○○●○●●●●→遇
積岩間水(思食)八劫德池
●○●● ●●●○→支
無常春花随風散安 ※平家一門の都落ちを流用
○○○○○○●○→寒
有涯秋月伴雲隱安
●○○●●○●○→寒 ※平家一門の都落ちを流用
翫承陽殿於花朝風來散匂
●○○●○○○○○●?→?匀?
詠長秋宮於月夕雲覆隱光
●○●○○●●○●●○→陽
昔鋪玉樓金殿於錦褥
●○●○○●○●●→沃
妙成(御)栖今柴引結草庵→【漢詩外?】
●○ ○○○●●●○
凋濕外袂→【漢詩外?】
○●●●
平仄も韻も一致しないことから、これは疑似漢詩といえる。
③ 百二十句本
甍破霧焚不斷香 甍破れては、霧不断の香をたき
○●●○●●○→陽
樞落月掲常住燈 枢落ちては、月常住の灯をかかぐ
○●●●○●○→蒸
(3)古詩の挿入
① 平家物語では、古詩を挿入してその彩りを添えている。
有名なものでは、
(忠度の都落ち)
和漢朗詠集 餞別 大江朝綱
於鴻臚館餞北客序
前途程遠 馳思於鴈山之暮雲
後會期遥 霑纓於鴻臚之曉涙
(平家一門の都落ち)
和漢朗詠集 故宮 源順
強強呉滅兮有荊蕀
姑蘇台之露瀼々
暴秦衰兮無虎狼
咸陽宮之煙片々
(大原行幸)
和漢朗詠集 草 本朝文粋 橘直幹
瓢箪屢空 草滋顏淵之巷
藜藋深鎖 雨濕原憲之枢
② 漢詩の翻案して挿入。
水原一氏(新潮集成)によると、以下の句は、「この典拠の句は人口に膾炙し、」と有名なものとしている。
和漢朗詠集 懐旧 菅原文時 本朝文粋
金谷醉花之地 花春毎匂而主不歸 金谷に花に酔うし地、花春毎に匂うて主帰らず
南樓嘲月之人 月與秋期而身何去 南楼に月を嘲つし人、月秋と期して身何ちにか去んじ
(延慶本 十一 廿二 けんれいもんゐんよしだへいらせたまふこと)
花は色々ににほへども、あるじとて風をいとふ人もなければ、心のままにぞ散ける。月はよなよなもりくれども、ながむる人もなければ、うらみをあかつきの雲にのこさず。きんこくに花をながめしかく、なんろうに月をもてあそびし人、
紙広行教授によると、
ももしきに花の色々匂ひつつ千歳の秋は君がまにまに 清正集
春来てぞ人も訪ひける山里は花こそ宿のあるじなりけれ 拾遺集 雑春 公任
花を宿の主とたのむ春なれば見に来る友を嫌ふものかは 拾玉集 慈円
物思ふ心のたけぞ知られぬるよなよな月を眺めあかして 山家集 西行
を引き歌としたとしている。しかし、和歌には本文取りという技法もあり、どっちを引いてきたかは不明であるが、元は文時の詩と見なすべきであろう。