孤 鷺
金澤にて
せみしぐれ
亡き友をおくりて騒ぐ蝉しぐれ
新 盆
孫たちが集いてうれし持ち花火
夏惜しむ空に沸き立つ茜雲
山の間に膨らむ旭秋の朝
一人住まいの飲み屋の女将の気持ちを詩って
年を経て夕暮れ寒く巷居る
年を経て寂しさ募る夕焼けに
金石漁港で狸を初めて見て
夕焼けと狸見に来る港町
のき下の何をか喰わん痩せ狸
夕焼けの川面を散らす帰り舟
立 山
紅葉を押し下げてや初冠雪
空重く驚かしてや鰤越し
冬の内灘の海
色のなき空と海とに吹くみぞれ
前田利家公像
母衣武者の影も勇まし秋の寺
ほうほうと落葉舞上げ鳩の寺
からからと落葉転がり風寂し
窓の曇ったバスを降りて
港より巷(まち)に出て見る雪景色
里 帰 り
老いし母これが最後か帰る汽車
見送りの母見納めと窓開ける
犀川大橋のたもとのスナックで
犀川のたもとに光る牡丹雪
片町の色写してや水光る
年の瀬の犀川渡る人早し
退 職
長年の思ひが募る雪景色
退職の思ひは募る雪景色
夜の禅寺
禅寺に夜風は寒く樹々きしむ
雲水に待ち合わせまでの気持ちを恥じて
禅寺に作務衣を見つけ寒さ恥
新年のスナックの店にて
冬いちご酒のゆらぎの甘酸さや
冬いちご泡のゆらぎの甘酸さや
かずの子の黄色ぷりぷり歯に甘し
焼芝の新たな命ひょっと見ゆ
なん天の影うつろいて盃に入る
陶淵明
六朝の麗美の中に素が光る
DNA
十億のらせんの中に神を見ゆ
十億のはるかな流れ螺旋かな
おさな子とおとな
赤ほっぺ一つ一つが
「じょうずやね」
久しぶりに晴れて
定めなき冬の青空庭に出る
春の朝日が雪山を光らして
しらやまの奥の奥まで見ゆる春
春の雨
北國のひと雨ごとに春よこい
北國のひと雨ごとに春になれ
惜 別
行く春や二川の桜名残惜し
上越新幹線の春
花と雪ともに降りけり旅の窓
前句を芭蕉伊吹山の句の前書きを借りて
花と雪たのみて進む旅の窓
帰京直前の突然の大雪に
花見たば
しばし留まれなごり雪