一 入道前ノ関白大政大臣右太臣に侍ける時百首
哥とませ侍けるに立春のこゝろを
この入道は法性寺どのにてあるとなり。
一 皇太后宮太夫俊成
正三位権中納言俊忠男。母敦家朝臣女。
七十二首入。皇太后宮大夫は官也。俊成卿の
家集を、長秋衆と云もこの官にて有し
ときの故也。長秋とは唐名なり。法名は釈阿也。
俊頼俊成はみちをきゝ、後には古今をば
基俊に相傳せられしによりて、両流を
ひとつにしりて、二条冷泉の元祖なり。
一 今日といへばもろこしまでも行春をみやこにのみと思ひけるかな
古抄云。もろこしまでとは、春のあまねくいた
るをいへり。然るをみやこばかりとおもふは、こゝろせ
ばき事ぞとなり。
増抄云。けふといへばといふ五文字に、春たつと云ふばかり
にやみよしのゝ山もかすみて今朝はみゆらんの
哥のこゝろも有べし。又は、はるかなるもろこし
までもゆくものは秋のねざめのこゝろ也けり。
この哥よりおもひよれるとみたり。行ものを
かへたるなり。もろこしは異国をさして云也。
唐の字をよめり。此代にもろ/\のものこし
きたりし故に、かく云となり。されどすべて
異国の事を、十四代ながらを云なり。春東
方よりきたるかと云本文をふまへにしたる也。
頭注
職源云。
皇太后宮職
帝王祖母也。
太夫 一人
相當從四位下
唐名長秋監
○都古今遷建云。
帝都天子之居
天子以四海為家
豈有常処哉惟
其所在即以為都
故考以来三皇五
帝三代各有攸居
都者人之所都會
云尒以衆大而言
謂之亰都。
※法性寺どの 九条兼実
※春たつと云ふばかりにやみよしのゝ山もかすみて今朝はみゆらん 拾遺集春歌 壬生忠岑
※はるかなるもろこしまでもゆくものは秋のねざめのこゝろ也けり 千載集秋歌下 大貳三位
※十四代 夏、殷、周、秦、漢、三国、晋、南北朝、隋、唐、五代、宋、元、明を言う。
※春東方よりきたる 和漢朗詠集 立春 池凍東頭風度解 など。