秋哥上巻四
後徳大寺左大臣
○いつもきく麓の里とおもへどもきのうふにかわる山おろ
しの風
此哥秋の詞なし。山おろしの風きゝしにかは
りたるは秋になるかとよめり。本哥にこと
はらせたる哥なり。此ふもとの里にすみて
きゝなれし山おろしの音も秋になるより
かはわりきこゆるなり。げにも風のすがたは
めに見えねども音にもしられぬるよときこえ
たる哥なり。
本哥
秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚ぬる
同
よるの雨聲ふりのこす松風にあさけの袖は昨日にもにず
古今集秋歌上
秋立つ日よめる 藤原敏行
秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる
拾遺愚草員外 藤原定家
夜の雨の声ふき残す松風に朝けの袖は昨日にもにず