題しらず 宇治前関白太政大臣
法性寺ノ入道摂政ノ一男、頼道。母ハ左大臣雅信ノ
女。從一位倫子。号鷹司殿一首入。宇治にヰ
給ふ故にかく云也。平等院を建立し給也。
おられけり紅匂ふ梅の花けさ白妙にゆきはふれども
古抄云。紅梅を雪のふりかくしたるさまなり。
されども紅なれば、白妙の雪にまがはず折れける
と也。
有色易分残雪ノ底。無情難弁夕陽ノ中
増抄云。五文字に先如此いひいだしたるは悦たる
心あり。白梅ならばおられまじきが折られけると也。
紅と白との色をとり合て上下におきて
對によめるしたてなり。
一 梅ノ花遠薫といへる心をよみ侍ける
源俊頼朝臣 大納言經信ノ三男。母ハ土佐守
貞亮ノ女。十一首入。従四位上木工頭也。
一 心あらばとはまし物を梅がゝに誰里よりか匂ひきつらん
増抄。梅の匂ひがえならずあるに、さてもいづく
にあるとたづぬるに近所にはなければさて
いかにしてしらんぞ。梅がゝが心あるならばたが里より
ととはんすれども、心がなきによりて、せんかた
なし。心あらばとはまし物をとなげきたる心
なり。住吉の松ものいはばといひきしの姫松
人ならばといひしたぐひなり。非情のもの
にこゝろあらばとなげく由なり。下句よりも
上へかへしてみる哥也。誰が里よりかといふに心有。
此梅がゝは常の梅がゝにてばかりなし。いかなる人の
袖ふれし匂ひがそひつらん。かゝる梅がゝに
まさる匂ひそろへし人の里をとひたくこそ
あれといふ心にて、誰里よりとよめる成べし。
頭注
住吉の松ものいはゞ
といひてましむかし
もかくやすみの江の月
住吉のきしの姫松
人ならばいくよかへし
ととはましものを
※住吉の松ものいはゞ~
千載集神祇歌
おなし歌合(すみよしの社の歌合)に、社頭月といへる心をよみ侍りける
右大臣(源実定)
ふりにける松ものいははとひてましむかしもかくやすみのえの月
※住吉のきしの姫松~
古今集雑歌上
題しらず よみ人しらず
住吉の岸のひめ松人ならはいく世かへしととはましものを