それを吹なかへしそと秋風にいひかけたる哥なり。
河水に鹿のしがらみうけてけりうきてながれぬあき萩の花
萩をば鹿のつまといひならはせり。萩にやすらひ
とゞこほるによりしかのしがらみと云るにや。古今に
引
あき萩をしがらみふせてなくしかのめには見えずて音のさやけさ
大納言經信
花見にと人やりならぬ野べにきて心のかぎりつくしつるかな
此哥經信卿つくしに侍る時よめる哥なり。かの
国に住けるころ秋の野のおもしろくあはれなる
を見て都のこひしきと心をこめて詞にあら
はさずよめる。きとくなり。此作者の哥は
毎首かやうにかすかなる所をふくみおもてをば
やす/\とよめるなり。人やりならぬとは古今に
人やりのみちならなくに大方はいきこしといひていさ
歸なん。心のかぎりつくしつるかなとはつくしといふ心
もあり心づくし●●●ともめり。家隆哥に
引木間なき唐舟のうきねにも心づくしの月を見る哉
引住よしに歸らんとのみ歎つゝ心づくしにとしをふる哉
※人やりの
古今集離別歌
山ざきより神なびのもりまでおくりに人人まかりて
かへりがてにしてわかれをしみけるによめる
源実
人やりの道ならなくにおほかたはいきうしといひていさ帰りなむ
※心つくし●●●ともめり→心づくしなどゝもよめり(幽斎補筆聞書より)
※木間なき
道助法親王家五十首 秋
藤原家隆
木の間なき唐船ふねのうきねにも心づくしの月は見えけり
※住よしに
おほすみの国の任はててのぼらむとしけるを太弐
沙汰することまたしとてとどめ侍りけれはよめる
津守有基
住之江にまつらむとのみ歎きつつ心づくしに年をふるかな