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Channel: 新古今和歌集の部屋
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美濃の家づと 三の巻 羇旅歌1

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 羈旅歌

守覚法親王ノ家ノ五十首ノ歌に旅

                  俊成卿

夏かりのあしのかりねも哀なり玉江の月の明けがたの空

下句めでたし。 二の句のも°ゝじを思ふに、此哀なり

は、時所のけしきをめでたるかたと聞ゆ。もしかなしき

かたならば、かりねぞ哀なる、と有べきこと也。 後拾遺√夏か

りの玉江のあしをふみしたき云々。

立かへり又も來てみむまつしまやをじまのとまや波にあらすな

                  定家朝臣

ことゝへよおもひおきつの濱ちどりなく/\出し跡の月影

いとめでたし。詞めでたし。 古今に√君をおもひ

おきつの濱に云々。此本哥は、たゞ君を思ひて尋ね

ざるを、こゝの歌は、思ひおくといひかけたり。思ひを

のこしおきて別れ來つるなり。 跡の月影は、別

れこし方の空に見ゆる月也。さる故に、わかれ來つる

跡の事を、語りて聞せよと、其月にむかひていへるなり。

旅の情あはれなり。 或抄に、ことゝへよとは、

千鳥にいひかけたるなりといえるは、かなはず。千鳥は、

たゞなく/\といはむ料のみなり。

                  家隆朝臣

野べの露浦わの浪をかこちてもゆくへもしらぬ袖の月影

いとめでたし。詞めでたし。 上句、やどれる月影の、

袖にとまらぬ事を、露や浪にかこつなり。露波の、

袖にかゝるをヵこつにはあらず。 一首の意は、袖に

やどれる月を旅ねのなぐさめに見つるを、其月も

袖にとまらぬををしみてやどしたる露や波に、

かこちうらむれども、つひにその月影は、ゆくへもしら

ず、きえにしよりなり。 ゆくへもしらぬといへ

る、旅によせある詞なり。 ふるき注どもは、いふに

たらぬひがごとなり。

題しらず             西行

都にて月をあはれと思ひしは数にもあらぬすさび也けり

旅にて見る月のあはれさにくらぶれば、都に在て

見しあはれさは、物のかずにもあらぬ、すさびにて

有しよとなり。すべてすさびとは、まめやかに心をいれ

てするにはあらで、たゞ何となくはかなくすることを

いふ。手ずさび口ずさびなどのたぐひなり。此すさびを

すまひと書る本は誤なり。

月みばと契りて出し故郷の人もやこよひ袖ぬらすらん

故郷をわかるゝ時に、月見ばたがひにおもひいでむと、契り

おきし人も、こよひわがごとく月を見て、おもひ

出て、袖ぬらすらむかと也。

 

 

※後拾遺√夏かりの玉江のあしをふみしたき
後拾遺集 夏歌
 題しらず
                 源重之
夏刈りの玉江の芦をふみしたき群れゐる鳥の立つ空ぞなき

※玉江 和名類聚抄、俊頼髄脳など多くの説は越前国(福井県福井市)だが、一部袖中抄など万葉集巻七1348を引いて、摂津の高槻市の三嶋江附近としている説もある。共に芦の名所。また八雲御抄巻三などでは、江の美称とも考えられている。

※古今に√君をおもひおきつの濱に
古今集
 貫之かいづみのくにに侍りける時に、やま
 とよりこえまうてきてよみてつかはしける
                 藤原たたふさ
君を思ひおきつのはまになくたづの尋ねくれはそありとたにきく

※興津の濱 和泉国の歌枕とする九代抄、聞書、八代集抄などがあるが、阿仏尼の十六夜日記に駿河の興津としている。本歌の古今集が和泉としている事から、和泉とすべきか。

※或抄(こととへよ) 不明

※浦わ 上代語の浦回(うらみ)から出た詞。

松島雄島


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