新古今和歌集 第十一 戀歌一
女に遣はしける 在原業平朝臣
春日野の
若紫の
すりごろもしの
ぶのみだれ
かぎり知られず
読み:かすがののわかむらさきのすりごろもしのぶのみだれかぎりしられず 隠
意味:春日野の若い紫で摺った衣のような美しい貴方を拝見して、この信夫もじ摺の衣のように忍心でとても乱れております。
備考:伊勢物語 一段、古今和歌六帖
むかしをとこ、うゐかぶりして、ならの京、かすがの里に知るよしゝて、狩にいにけり。その里に、いとなまめいたる女はらから住みけり。このをとこ、かいまみてけり。おもほへず、古里にいとはしたなくてありければ、心地まどひにけり。
をとこの著たりけるかりぎぬの裾を切りて、歌を書きてやる。そのをとこ、しのぶずりのかりぎぬをなむ著たりける。
かすが野の若紫のすりごろもしのぶのみだれ限り知られず
となむ、をいつきていひやりける。ついでおもしろきことともや思ひけむ。
みちのくの忍もぢずり誰ゆゑにみだれそめにし我ならなくに
といふ歌の心ばへなり。昔人は、かくいちはやきみやびをなむしける。