もひとつにとは、月の色と一様に、かすみてと也。
月ばかりさへしく物ぞなきといひつるに、
花も一様にかすみこめたる世界の躰也。
藤壺は弘徽殿ノ西或五間四面飛香舎なり。
一 百首哥たてまつりし時。 源ノ具親
于時從五位上。左兵衛佐。父母同宮内卿七首入
一 難波潟かすまぬなみも霞けうつるも曇るおぼろ月
よに
増抄ニ云。うつるもくもると云詞制なり。難
波がたといひいだしたるは、波もしづかなる所
なれば成べし。或説に、よの所をもいふべきに、
なにはゝ春によせある所なり。そのゆへは
なみのはなといふ名なり。それをいひあや
まりてかくいふと也。むかしなみが花のごとくに
みえしににより、なみの花と名づけらるゝよし
日本紀に有となり。されば春により所の
ある名によりて、なにはがたと云出したりと也。
かすまぬ波もかすむといひいだして、その
ことわりを下句にいへり。なにとしてかすむ
ぞなれば、波にうつるも春の月はくもる故
に、月かげによりて波もかすみてみゆる
と也。根本波は春にてもかすまぬものなれ
ば也。所の景氣おもひ入りてみるべし。此哥
上下にかすまぬ波かすむといひ、うつるもくもる
とある詞を置格なり。かやうによむべしとぞ。
頭注
浦 磯 潟 大方
似たるものなり。
只海のきわ成
べしとぞ。
※なみのはなといふ名なり 浪花