孟実父出来てよりは源の前のやうに憚り給はぬと也
と、中々このおやたづね聞え給て後は、こと
にはばかり給氣色もなき、おとゞの君の御
もてなしをとりくはへつゝ、人しれずなん
孟
なげかしけりける。思ふことを、まほならず
ともかたはらにても、うちすめつべき女
細 源内大臣也
おやもおはせず、いづかたも/\いとはづかし
げに、いとうるはしき御さまどもには、なに
ごとをかは、さなんかくなんともきこえわき
孟 玉の観念也
給はん。世の人ににぬ身の有樣をうち
ながめつゝ、夕暮゙の空の哀げなる氣色を、
抄 玉かづらの躰也
はしちかくてみ出し給へるさまいとおかし。
河薄鈍色祖母服也。うす花田也。
うすきにび色の御ぞ、なつかしき程にや
頭注
おもふことをまほならず
孟女おやにはう地とけて
物もいひよきに、それは
なければと玉の心也。
うすきにび色 細三条大
宮なやみ給ふ事前ノ巻
つれて、れいにかはりたる色あひにしも、か
たちはいと花やかにもてはやされてお
はするを、御前なる人々゙は、うちゑみてみ
玉かづらと同鈍色也
奉るに、宰相の中将おなじ色の今すこ
細色のこき也
しこまやかなるなをしすがたにて、えい
まき給へるしも、またいとなまめかし
花是は夕霧と玉との御
くきよらにておはしたり。はじめより
あびしらひ也
物まめやかに心よせきこえ給へば、もては
なれて、うと/\しきさまにはもてなし
夕霧玉かづらと兄弟ならずとぞと也
給はざりしならひに、今あらざりけり
とて、こよなくかはらんもうたてあれば、
なをみすに木丁そへたる御たいめんは、
頭注
に見えたり。三月廿日と
藤裏葉に見えたり。三月
なるべし。今玉かづら祖母
の服をき給へり。孟三条
宮被薨事をこゝに始め
て書出也。
宰相中将 細夕霧参
議に昇進の事爰に
て観たり。行幸蘭
の巻の間にて昇進
あるべし。哢同
おなじ色の今すこしこま
やかなる 孟夕霧も孫な
れば着服也。人淺深
によりて色の厚薄あり。
夕霧は一段女恩をかう
ふられたるほどに厚也。
えいまき 花服者の巻
纓するはかざりをのぞ
く心也。何巻纓者着服
之儀也。
はじめより物まめやかに
細玉かづら実の兄弟の由
をいひしらせ給ふ故に
夕霧はまことのはらからの ごとくし給へる也。
源氏物語 三十帖 藤袴
夕霧はまことのはらからの ごとくし給へる也。
と、中々この親訪ね聞え給ひて後は、ことに憚り給ふ気色も無き、
大臣の君の御もてなしを取り加へつつ、人知れずなん歎かしけり
ける。思ふ事を、まほならずともかたはらにても、うちすめつべ
き女親もおはせず、何方も何方もいと恥づかしげに、いと麗しき
御樣共には、何事をかは、さなんかくなんとも聞こえわき給はん。
世の人に似ぬ身の有樣をうち眺めつつ、夕暮の空の哀げなる景色
を、端近くて見出し給へる樣いとおかし。
薄き鈍色の御衣、懐かしき程にやつれて、例に変はりたる色あひ
にしも、容貌はいと花やかにもてはやされておはするを、御前な
る人々は、うち笑みて見奉るに、宰相の中将、同じ色の今少し細
やかなる直衣姿にて、纓巻給へるしも、またいとなまめかしく清
らにておはしたり。初めより、物まめやかに心寄せ聞こえ給へば、
もて離れて、疎々しき樣にはもてなし給はざりしならひに、今、
あらざりけりとて、こよなく変はらんもうたてあれば、なを御簾
に几帳添へたる御対面は、
略語 ※奥入 源氏奥入 藤原伊行 ※孟 孟律抄 九条禅閣植通 ※河 河海抄 四辻左大臣善成 ※細 細流抄 西三条右大臣公条 ※花 花鳥余情 一条禅閣兼良 ※哢 哢花抄 牡丹花肖柏 ※和 和秘抄 一条禅閣兼良 ※明 明星抄 西三条右大臣公条 ※珉 珉江入楚の一説 西三条実澄の説 ※師 師(簑形如庵)の説 ※拾 源注拾遺 湖月抄 藤ばかま
源氏物語 三十帖 藤袴