(19)放たれた矢 - 大河ドラマ「光る君へ」
道長(柄本佑)が右大臣に任命され公卿の頂点に。これを境に先を越された伊周(三浦翔平)との軋れきが高まっていく。一方まひろ(吉高由里子)は、ききょう(ファーストサ...
澗底松 念寒儁也
白居易
有松百尺大圍生在澗底寒且卑澗深山
險人路絶老死不逢工度之天子明堂欠梁
木此求彼棄両不知誰諭蒼蒼造物意但與
之材不與地金張世禄黄憲賢牛醫寒賤貂
蟬貴貂蟬與牛醫高下雖有殊高者未必賢
下者未必愚君不見沈沈海底生珊瑚歷歷
天上種白榆
ドラマでの朗詠
一条天皇 その方は、新楽府を読んだのか?
まひろ 高者、未だ必しも賢ならず、下者、未だ必しも愚ならず。
一条天皇 身分の高い低いでは賢者か愚者かは計れんな。
澗底松 念寒儁也 澗底の松 寒儁を念ふ也
白居易
有松百尺大十圍 松有り、百尺、大(ふと)きこと十囲、
生在澗底寒且卑 生ひて澗底に在り。寒にして且つ卑し。
澗深山險人路絶 澗深く、山険しくして、人路絶え、
老死不逢工度之 老い死(か)るるとも工の之を度るに逢はず。
天子明堂欠梁木 天子の明堂に、梁木を欠く。
此求彼棄両不知 此に求め、彼(かしこ)に棄つるも、両(ふた)つながら知らず、
誰諭蒼蒼造物意 誰か諭(し)らん、蒼蒼たる造物の意、
但與之材不與地 但だ之に材を与へて、地を与へず。
金張世禄黄憲賢 金張は世よ禄せられ、黄憲は賢なり、
牛醫寒賤貂蟬貴 牛医は寒賤にして、貂蟬は貴し。
貂蟬與牛醫 貂蟬と牛医と、
高下雖有殊 高下、殊なる有りと雖も、
高者未必賢 高者、未だ必ずしも賢ならず、
下者未必愚 下者、未だ必ずしも愚ならず。
君不見沈沈海底生珊瑚 君見ずや、沈沈たる海底に珊瑚生じ、
歷歷天上種白榆 歷歷たる天上に、白榆を種(う)ゑたるを。
通釈
高さ百丈(約31m)、太さ十抱えもある立派な松が、
寂しく低い谷底に生えている。
谷は深くて山は険しいので、人の行く道も絶え、
老衰して枯死しても、良材を求める大工の見立てに逢う事も無い。
天子は、祭祀を行う明堂を建てようとして不足する良質の梁材を
探し求めるが、谷底の大松は見捨てられたまま、両者とも相知る事は無い。
天の意図は計り知れないもの、
ただ、大松には良質の材を与え、成長する適地を与えなかった。
人の世も同じで、前漢の金日磾や張湯の子孫は代々高官として禄を食む名門だったが、後漢の黄憲は賢者の評判を得ただけだった。
牛の獣医の黄憲は卑賤のまま、豹の尾と蝉の羽を飾った高官の冠を被る金日磾や張湯の子孫は高貴な身分のままだった。
高官と獣医と、
身分の上下は異なっている現実はあるにせよ、
身分の高い者は、賢者であるとは限らず、
身分の低い者は、愚者であるとは限らない。
君は見たことがあるだろうか?人の目の届かない深い海の底に綺麗な珊瑚が生じ、
天上にも白楡の樣な普通の樹が植えられているのを。