いふ恋によせたる斗也。古今に√つの国のなにはおもはず山城のとはにあひみん事を
のみこそといへる名所二を讀る此作例なるべし。孟柏木の哥也
やりならず。
玉
まどひける道をばしらでいもせ山たど
宰相の詞也
/"\しくぞたれもふみ見し。いづかたのゆへ
となん。えおぼしわかざめりし。なに事゙も
わりなきまで、大方のよをはゞからせ給
めれば、え聞えさせ給はぬになん。をのづか
柏木の心
らかくのみも侍らじときこゆるもさる
に尤と也 細柏木の詞也
ことなれば、よしながゐし侍らんも、す
さまじきほどなり。やう/\らうつもり
河格勤孟方向の事也
てこそは、かくごんをもとてたち給ふ。月
頭注
人やりならず 花柏木のふ
みまよひける事は我心
からの事也。人やりなら
ぬるといへり。
まどひける道をば 孟玉の
返哥也。頭中将の哥に
こたへてたれもふみ見
しとよめり。是も文に
そへたり。おぼつかなくお
もひながら、文をも見し
と也。我もといふべきを
たれもといへる。尤面白き
なり。細何ゆへともしら
ざりしと也。
いづかたのゆへとなん 花柏木
は兄弟と思ひて、文をた
びたりしやらん。又何事
ゆへとも思ひわかざりしと也
をのづからかくのみも
頭注
今こそあれ自然にはと也。細宰相の君の云也。かく疎遠にてはありはつまじき事と也。
かくごんをも 哢或事かごとをも安く聞ゆる也。師奉公のらうをつみてこそかこ
つべけれと也。哢問かくこんと云たる心如何。一勘奉公する人をいふ。今も力者かく
ごなど常に云事也。
くまなくさしあがりて、そらのけしきも
柏木のさま也
えんなるに、いとあてやかにきよげなるか
たちして、御なをしのすがたこのましう、
孟夕霧也
はなやかにていとおかし。宰相の中将のけ
はひありさまには、えならび給はねど、これ
もおかしかめるは、いかでかゝる御なからひ
なりけんと、わかき人々゙は、例のさるまじ
ひげ黒也
きことをも、とりたてゝめであへり。大将は
細右近の大将右近の中将也
この中将はおなじ右のすけなれば、つねに
孟内大臣也
よびとりつゝねんごろにかたらひ、おとゞに
頭注
かゝる御なからひ 師夕
霧もはなれぬ御中也。
いづれもめでたき御さ
まどもなかを云也。
大将はこの中将は同じ右の
すけなれば
孟髭黒は右大将。柏木は
頭右中将也。
忍びやかに聞え給ふ。用意など、人には劣り給はず、いとめや
やりならず。
惑ひける道をば知らで妹背山たどたどしくぞ誰もふみ見し
「いづかたの故となん。えおぼし分かざめりし。何事も、
わりなきまで、大方の世を憚らせ給ふめれば、え聞えさ
せ給はぬになん。自づからかくのみも侍らじ」と聞こゆ
るも、さることなれば、
「よし、長居し侍らんも、すさまじき程なり。やうやう
労積もりてこそは、かくごんをも」とて立ち給ふ。月隈
無く、差し上がりて、空の景色も艶なるに、いとあてや
かに清げなる容貌して、御直衣の姿好ましう、華やかに
て、いとおかし。
宰相の中将の気配有樣には、え並び給はねど、これもお
かしかめるは、
「いかで、かかる御仲らひなりけん」と、若き人々は、
例の、さるまじき事をも、取り立てて愛であへり。
大将は、この中将は同じ右のすけなれば、常に呼び取り
つつ、懇ろに語らひ、大臣に
和歌
玉鬘
惑ひける道をば知らで妹背山たどたどしくぞ誰もふみ見し
よみ:まよひけるみちをばしらでいもせやまたどたどしくぞたれもふみみし
意味:兄弟とは分からないままの文を、たどたどしくも拝見しておりました。
備考:文と踏みの掛詞。
略語
※奥入 源氏奥入 藤原伊行
※孟 孟律抄 九条禅閣植通
※河 河海抄 四辻左大臣善成
※細 細流抄 西三条右大臣公条
※花 花鳥余情 一条禅閣兼良
※哢 哢花抄 牡丹花肖柏
※和 和秘抄 一条禅閣兼良
※明 明星抄 西三条右大臣公条
※珉 珉江入楚の一説 西三条実澄の説
※師 師(簑形如庵)の説
※拾 源注拾遺
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