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平家物語巻第十二 六 六代の事2

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はせける程に、あるばうに、女房たちあまた、おさなき人々 ゆゝしうしのぶたるていにて、すまはれたり。まがきのひまよ りのぞいてみれば、しろいゑの子の、庭へはしり出たるを                      わかぎみ とらんとて、世にうつくしき若君の、つゞいて出給ひけるを めのとの女ばうと覚しくて、あなあさまし人もこそ見 參らせさぶらへとて、いそぎ引入奉る。是ぞ一ぢやうそ にてましますらんと、思ひ、いそぎはしりかへつて、此よし                 ほうでう 申ければ、つぎの日北条、しやうぶ谷を打かこみ、人を入て                                         わか 申されけるは、小松の三位の中将、これもりの卿の若君六代 御前の是にましますよし、承はつて、かまくら殿の御代 官として北でうの四ら時政が、御むかへに參て候とう/\ 出し參らさせ給へと申されければ、母うへ夢の心ちして、つ                       さいとう や/\物をも覚え給はず。斎藤五斎藤六、其邊をは しりまはつて、うかゞひけれ共、ぶし共四はうを打かこ んで、いづかたよりいだし參らすべし共おぼえず。はて上 Image may be NSFW.
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は若君をかゝへ奉て、唯我をうしなへやとて、おめきさけび 給ひけり。めのとの女ばうも御まへにたをれふし、こゑもをし まずおめきさけぶ。日比は物をだにたかくいはず。しのびつゝかく れゐたりしか共、今は家の内に、有とあるものこゑをそ ろへてなきかなしむ。北でうも岩木ならねば、さすがあはれ に覚えて、なみだをゝさへ、つく/"\とぞまたれける。やゝあつて 又人を入て申されけるは、世もいまだしづまり候はねばしどけ なき御事もぞ候はんずらん。時政が御むかへに參て候。別 のしさい候まじ。とう/\出し參らせ給へと申されければ わか君母上に、申させ給ひけるはつゐにのがれまじう候。うへ はや/\出させおはしませ。ぶし共の打入りて、さがす程ならば 中/\うたてげなる。御有樣共を、見えさせ給ひ候はんずら ん。たとひまかりて候共、しばしもあらば北でうとかやに、い とまこふて、ふり參り候はん。いたうなげかせ給ひ候うぞとなぐ さめ給ふこそいとおしけれ。さてしも有べき事ならねば   平家物語巻第十二
  六 六代の事 はせける程に、ある坊に、女房達数多、幼き人々ゆゆしう忍ぶたる体にて、住まはれたり。籬の隙より覗いて見れば、白犬(ゑ→ぬ)の子の、庭へ走り出でたるを捕らんとて、世に美しき若君の、続いて出で給ひけるを乳母の女房と覚しくて、 「あなあさまし。人もこそ見參らせ候へ」とて、いそぎ引き入り奉る。是ぞ一定そにてましますらんと、思ひ、急ぎ走り帰つて、此の由申ければ、次の日、北条、菖蒲谷を打囲み、人を入て申されけるは、 「小松の三位の中将、維盛の卿の若君、六代御前の是にまします由、承はつて、鎌倉殿の御代官として北条の四郎時政が、御迎へに參て候。とうとう出だし參らさせ給へ」と申されければ、母上、夢の心地して、つやつや物をも覚え給はず。斎藤五、斎藤六、その辺を走り回つて、窺ひけれども、武士ども、四方を打囲んで、いづ方より出だし參らすべしとも覚えず。はて上は若君を抱へ奉て、唯、我を失へやとて、おめき叫び給ひけり。乳母の女房も御前に倒れ臥し、声も惜しまずおめき叫ぶ。日比は、物をだに高く言はず。忍びつつ隠れ居たりしかども、今は家の内に、有とあるもの声をそろへて泣き悲しむ。北条も岩木ならねば、さすが哀れに覚えて、涙を抑へ、つくづくとぞまたれける。ややあつて又、人を入て申されけるは、 「世も未だ鎮まり候はねば、しどけなき御事もぞ候はんずらん。時政が御迎へに參て候。別の子細候まじ。とうとう出でし參らせ給へ」と申されければ、若君、母上に、申させ給ひけるは、 「終に逃れまじう候うへはや/\出ださせ御座しませ。武士どもの打入りて、探す程ならば、中々うたてげなる。御有樣共を、見えさせ給ひ候はんずらん。例ひ罷りて候へども、暫しもあらば北条とかやに、暇請ふて、ふり參り候はん。いたう歎かせ給ひ候うぞ」と慰め給ふこそいとおしけれ。さてしも有るべき事ならねば、

 

※斎藤五、斎藤六 延喜本、長門本には、斎藤五宗貞、斎藤六宗光とあり、斎藤宗長の子。斎藤実盛の猶子。

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