仏 原
仏原 三番目物 作者不明
都の僧二人が加賀の国仏原に来て、小堂に泊まろうとした時、女が現れ、白拍子の仏御前の命日なので読経をして欲しいと頼まれ読経する。女は、平清盛が白拍子の祇王から仏御前に心が移り、祇王は出家するも仏御前も出家して再会する話をして、消えた。僧達は、供養をし寝ていると仏御前の霊が現れ、舞を舞い、悟道を示して消える。
前ジテ:里女 後ジテ:仏御前の霊 ワキ:旅僧 ワキヅレ:供僧 アイ:里男
ワキ 猶々佛御前の御事、委御物語候へ。
地 昔平相國の御時、妓王妓女佛刀自とて、音感舞曲花めきて、世上に名を得し遊女ありしに。
女 始めは妓王を召し置かれて、遊舞の寵愛甚だしくて
同 色香を飾る玉衣の、袖の白露おきふしの 御簾の中を立ち去らで、さながら宮女のごとくなりしに
シテ 思はざるに折を得て
同 佛御前を召されしより、御心移りていつしかに、妓王は出され參らせて
シテ 世を秋風の音ふけて
同 涙の雨も、小止みもせず。
同 實や思ふこと、叶はねばこそ憂き世なれ、我はもとより有職の、花一時の盛りなれば、散るをなにと恨みんや、嵐は吹け共、松はもとより常磐なり、いつ歎き、いつ驚かん憂き世ぞと、思へばかるゝ折節の、來るこそへなれ、しかも迷ひを照らすなる
女 彌陀の御國もそなたぞと
同 頼みをかけて西山や、憂き世の嵯峨の奧深き、草の庵に隠れがの、隠れて住と思ひしに、思の外なる佛御前の、樣を變へ來りたり、
こはそもさるにても、かく捨つる身となりぬれど、猶も御身のうらめしさの、執心は殘るに、そもかゝる心持つ人かや、今こそ眞の、佛にてましませとて、妓王は手を合はせ、感涙を流すばかりなり。
いつ歎き
巻第八 哀傷歌 831 西行法師
無常の心を
いつ歎きいつ思ふべきことなれば後の世知らで人の過ぐらむ